表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第一話

 九月二十五日。僕は刑務所を出所して自宅に帰った。

十年前、親友が犯してしまった罪の隠蔽の片棒を担いでしまった。親友のその泣きつくような必死の願い、我ながら人が良すぎると思いつつもその頼みを請け負い、共犯の徒となってしまった。しかしやはり今の時代の警察はそう見くびれるものでもなく、ものの数日後にはあっという間に僕たちのところへと辿り着いた。ところがこの親友、もう事件を隠すことができないと思うや否や、その罪の一切を全て僕へと押し付けた。友の策中にまんまと嵌められたのか、現場からはそれと思しき証拠が次々と発見された。僕はすぐに犯行の否認をした。事後の隠滅は共にしたが、犯行そのものは自分ではないと。しかし上辺だけの言葉よりもその根拠を重要視するこのご時世、僕の反発もむなしく結局僕は刑務所へと入れられた。

 檻の中で僕は、一人失意の日々を過ごしていた。最初のうちは寄越されていた、家族からの手紙も日に日に少なくなっていき、やがて途絶えてしまった。手紙の内容は、僕自身が犯罪者のレッテルを貼られ、家族もまたそれで傷ついているということ、そして家族自身は僕のことをいつまでも信じ、待ち続けるということだった。僕はそれを読んで読んで何度も読み返して、言えぬ思いで胸が詰まりそうになった。 そうした日々が積むに積まれた今日この日、僕は自宅へと戻ってきたのだ。

 家には誰も居なかった。それはみんながどこかへ出掛けている、ということではなく。あの長い長い時間は、いろんなものを失うのには十分な時間だった。父も母も、病気で亡くなってしまったということを面会の時間、数少ない知人から聞かされた。手紙の数が減り、途絶えたのもそのためだった。僕は頭の中で、母が病魔に冒されながらも手紙を書き続ける様子を思い浮かべた。そして僕はそれを思いながら、もう誰もいない居間で一人虚無感に酔いしれていた。

 そんな中、インターホンの音が静寂な空間に鳴り響いた。僕は玄関の方へと向かった。ドアを開けると、そこには一人の少女が立っていた。身長などから見て高校生くらいに見えた。

「こんにちは、久しぶりね。私のこと覚えてる?」

彼女はそう言った。僕は何か、記憶の中につっかえるようなものを覚えた。この人、見覚えがある。確か、確かあの時。僕は一つの記憶を取り出した。

「確か君は、小学生の頃まで一緒にいた…」僕がそう言うと、

「ようやく思い出したみたいね。」

僕の予想は的中した。

「本当に久しぶりだな。けれどたしかお前、小学生のときにずいぶん遠くに引っ越したんじゃないっけか?」

「あなたが警察にパクられたって聞いて、こっちのほうにすっ飛んできたのよ。」

「そのわりには、僕のほうに面会に来なかったよな。」

「ムショの中で話す気にはなれないから…」彼女はそう言って俯いた。

「私はここに、あなたを助けにきたのよ。」

「助けに?」

僕は思わずその言葉に反応した。

「だって、あなたこの先、どう生活していくか迷う、迷っているんでしょ。だから私が、何とかしてあげようと思ったの。」

「助けるって、どうするつもりなんだよ。」僕は彼女にやや強い声で尋ねた。もう家族も何もない僕を、彼女はどうやって救うつもりなのだろう。僕は気になって仕方がなかった。彼女はただ、自信ありげに言った。

「過去に戻って人生をやり直すのよ。」

 彼女の後についていった僕は、気がつけばやたらとコードが繋がれた椅子に座らされていた。

 過去に戻るということは、タイムスリップでもするのだろうか。タイムスリップで思い浮かべるいろいろなこと。ドラえもんのタイムマシン。戦国自衛隊。バックトゥザフューチャー。『時をかける少女』のタイムリープ。

「けれど今回あなたには時代もあなた自身も遡ってもらうわ。」

彼女はそう言って僕にベルトを手際よくくくりつけていく。

「それにしてもあんな簡単に信じてくれるとは思わなかったわ。馬鹿馬鹿しいとか、そんなこと言われるかと思ったけど。」

「君が意味もなく馬鹿馬鹿しいこと言わないってことは、昔から知ってるからな。それに…」

「それに?」

「どうせ他にすることがなかったし、何より夢があるじゃないか、過去にもどるなんて。」

「こんな変な機械に座らされて、よくそんなことが言えるわね。」

「まあね。」

僕はいいながら彼女の方を見る。それにしても若い。自分と同年代の人とはとても思えなかった。

「君ってさ、あれから随分経ったのにあんまり変わらないね。」

「それは…まあ、自分なりの若さの秘訣を守ってるって言うか…」

「ふ~ん。」

僕はそれ以上聞かなかった。彼女の表情にもっと気を配れば、あるいは気づけたかもしれない。

「さぁ、準備出来たわよ。」彼女は赤いボタンみたいなものの前に立った。

「ちなみにこれ、記憶とかも遡ることになるのか?」

「う~ん、知らない。」

「知らないんか。まあいいや。」

「それじゃ、行くよ。」

「分かった。」

彼女はそのスイッチを押した。

「じゃ、頑張ってね。」

「何をだよ。じゃあな。」

荒々しい轟音と共に、あたりが眩しくなり始めた。それがしばらく続いた後、

僕の

僕の記憶は途絶えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ