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パーティー離脱

 ダンジョンと呼ばれるものが生まれた。世界には、多くの種族が存在し、時に戦争をしていた。しかし、このダンジョンが生まれた事で、戦争すらも無くなった。それは、ダンジョンが内包している資源が要因だ。不足した資源を得るためにしていた戦争よりも、ダンジョンから得る方が効率的だったのだ。


 そんなダンジョンにも難易度が存在する。一般的な兵士が攻略出来るものから、誰にも攻略されていないものまで多岐に渡る。そういったダンジョンを攻略する人達を冒険者と呼んだ。冒険者はギルドに所属して、ランクを得る。ソロとパーティーでランクは、分けられる。共通するのは、上からS、A、B、C、D、E、Fの区別になるということだ。Sランクの冒険者は、十年以上誰にも攻略出来ていない未踏破のダンジョンを攻略した者達に与えられる。


 さらに、一番重要なのは、ダンジョンは今も増えているということだった。資源を回収する分には良いが、ダンジョンには、様々な危険もあった……


 ────────────────────────


「すまないが、パーティーを抜けてくれ……」


 マグネットという街のギルドにある小部屋で、アレン・ラルクは、今まで一緒に戦ってきたパーティーのリーダー聖剣士レオニス・ルークスから、そんな言葉を投げかけられた。他のメンバーである、重戦士ダグラス・バルロット、聖職者マリア・プルコッティ、魔法士サリー・マクラーレンは、申し訳なさそうに顔を俯かせていた。


「やっぱり、足手まといだからだよね」


 アレンは、声を絞り出すようにそう言った。アレン自身も前から、実感はしていた。アレンのパーティーは、Sランクと呼ばれる冒険者の中でもトップクラスに強いパーティーだ。そのため、より危険なダンジョンで戦う事が多くなる。その中でアレンの力量が、ダンジョンの難易度に追いついていないのだ。

 レオニスは、少し顔を歪めて言いにくそうにしながらも、はっきりと言葉にする。


「ああ、アレン。君を守りながら進むのは、俺達にとっても君にとっても厳しくなっている……それに……いや……このままでは、君を守り切れず死なせてしまう……」

「そう……だよね……分かった。僕は、パーティーを抜けるよ」


 アレンは、決心してそう言った。


「すまない!」

「私が守れれば良かったのですけど……ごめんなさい」

「あんたのサポートには、助けられたわ。本当にありがとう」


 ダグラス、マリア、サリーは、それぞれ頭を下げてそう言った。


「アレン、本当にありがとう。パーティーを結成した当初から、君には助けられ続けた。君のサポートがなくなるのは痛いが、君を永遠に喪うよりはマシだ。今まで、俺達を支えてくれて、ありがとう」


 レオニスも同じように頭を下げてそう言った。


「一緒に冒険出来て楽しかった。じゃあ、皆も頑張って」


 アレン達は、固い握手を結んでから別れた。パーティーから脱退する事を決意したアレンは、ギルドへと向かった。


「これからは、ソロでやるしかないのかな? はぁ……サリーやマリアと違って、接近戦はからっきしなんだよね」


 同じ後衛のはずのサリーやマリアは、それぞれ体術や棒術を学んでいて、それなりに接近戦が出来る。アレンも同じく棒術や剣術を習ったのだが、二人に遠く及ばない練度でしかない。アレンが、パーティーから離脱せざるを得なかった理由の一つである。

 アレンは、戦闘中に誰かしらに守ってもらわないと戦えなかった。少し前までのダンジョンでは、アレン一人でも対応することが出来た。しかし、最近のダンジョンでは、アレン一人では、対応出来なくなってしまったのだ。


「しばらくは、低ランクのダンジョンで生計を立てることにしようかな。それが、現実的だと思うし」


 パーティー離脱の手続きをするために、まずはギルドの受付へと向かった。離脱自体は、離脱者本人がいれば自由に行える。過去に、離脱したいのにパーティーメンバーが許諾せず、問題になったことがあったため、このような処理になった。


「すみません」

「はい。あっ、アレンさん。雑務カウンターに来るなんて珍しいですね。どうしました?」


 アレンは、Sランクのパーティーに入っていたので、ギルド職員達の間でも少し有名になっている。


「あの、パーティーを離れることになったので、その手続きを」

「え!? アレンさんが!?」


 受付嬢は、目を見開いて驚いた。


「な、何かご不満でもあったのですか?」

「いえ、単純に、僕の力が足りなくなったんです。僕を守りながらだと、他のメンバーにいらない怪我をさせてしまうので……」

「そんな……でも、アレンさんも剣術や棒術を習っていたじゃないですか……」

「僕は、そっちの才能はなかったから、今のランクだと全く通用しないんです」

「……そうなんですか。分かりました。じゃあ、手続きをしちゃいますね」


 受付嬢は、手早く手続きを進めてくれる。


「はい。これで、パーティー離脱の手続きは完了です。これからは、どうするつもりですか?」

「一応、ソロで、やってみるつもりです。それしかないですし」

「そうなんですか……あの……」

「何でしょうか?」


 受付嬢は、アレンに何かを言うかどうかを迷っていた。しかし、アレンが訊いたことによって、意を決したようだ。


「あの、ギルドの指導員をやりませんか?」

「指導員……ですか?」


 ギルドの指導員は、新人の冒険者に戦い方やダンジョンの潜り方など、生き残るための術を教える人の事を言う。


「でも、何で僕に、その話を?」


 アレンが話を聞いて、真っ先に思った事は、これだった。


「最近、指導員の高齢化が進んでいまして、若い指導員を求めていたんです。アレンさんなら、適任かと思いまして」

「でも、僕は、支援術士ですし、教えられる事なんて、あまりないですよ?」

「いえ、Sランクパーティーに所属していたという実績があります。生き残る術を一番知っているといっても過言ではありません。お願い出来ないでしょうか?」

「えっと……」


 アレンは、少し迷っていた。このままソロで冒険者を続けるとして、どこまでいけるのか。正直なところ、支援術士のアレンは、直接の戦闘に向いていない。パーティーメンバーをサポートするのが仕事だ。だから、ソロのまま冒険者をしたところで、今みたいな高ランクにはいけないだろう。


「いいじゃないか。俺も向いていると思うぞ」


 受付嬢の後ろから、アレンも知っている低い声がした。そこには、ギルドマスターであるガーランド・バルコニアの姿があった。


「ギルドマスター、いつの間に」

「今し方、降りてきたところだ。アレン、お前がパーティーを抜けるとはな。さっきも言ったが、お前に指導員は向いていると思うぞ。前にお前達の戦いっぷりを見たが、後ろから飛ばすお前の指示は、かなり的確だった。その感じで、戦いの術を教えてくれればいい」


 ガーランドはそう言って、頷いていた。真面目な顔をして言っている事から、冗談でもお世辞でもないと思われる。ガーランドにここまで言われた事で、アレンの決意も固まった。


「分かりました。その話、引き受けようと思います」

「そうか。じゃあ、手続きをしてやってくれ。俺は、上に戻る」


 ガーランドは、受付嬢にそう言って離れていった。


「じゃあ、手続きをしてしまいましょう」


 アレンは、受付嬢の出す書類に必要事項を書き込んでいく。最後の書類に、全てを書き終えると、受付嬢がニコッと笑った。


「これで、手続きは終わりです。受理致しましたので、今からアレンさんは、このギルドの指導員になりました。立場的には、私達ギルド職員と同じものになります。今日から、同僚になりますね」

「そうですね。よろしくお願いします。ええっと……」

「カレンです。カレン・サラエナ」

「改めて、よろしくお願いします、カレンさん」


 手続きも終わったので、これからどうすれば良いのかとアレンが思っていると、カレンが、仕事を渡す。


「では、早速、明日から仕事をして貰いますね。三日前に、冒険者登録をしたパーティーに付いて貰います。四人パーティーで、まだ子供なので、最初から丁寧に教えてあげてください」

「はい。分かりました。ギルドに来れば良いんですよね」

「そうですね。私は、明日も受付にいるので、ここに来て貰えれば大丈夫です」

「分かりました。じゃあ、今日は失礼します」


 アレンは、カレンと別れて、自分の家に戻る。こうして、アレンの指導員としての生活が始まろうとしていた。

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