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来世は鳥になりたかった男の話

作者: まるこめ

 僕の前世は蜂だった。

 前世のことはよく覚えている。蜂だった頃はただの働き蜂だったので良い暮らしではなかったが、空も自由に飛べたし、何より花の蜜は中々に絶品で、女王蜂に献上する蜂蜜を少々頂戴しては仲間たちとブンブンやったものだった。

 そんな日々にはそれなりに満足していたが、最期は大きな鳥に食べられてしまってあっけなく僕の蜂生は終わってしまった。


 魂だけになった僕は試しに神様にこう言ってみた。

「あのぅ、僕は蜂蜜が大好物でして。できれば来世は蜂蜜が食べられる生き物になりたいのですが」

 神様は少し笑って、ようし分かった、だったらお前は人間にしてやろう。という。

「えっと、人間は蜂蜜が食べられるんですか」

 なんて、今になって思えば少し間の抜けた質問を返す。神様は蜂蜜以外もなんだって食べたいものは食べられるんだと説明してくれた。僕は納得して、お礼を言ってまた現世に戻ってきた。


 以前から同僚の魂たちに聞いていたが、どうやら人間は頭も良くて色々できて、結構人気な生き物らしい。そんな記憶だけがあってワクワクしながら産まれてきたはいいが、どうやら人間という生き物は食べたいときに食べたいものが食べられる生き物ではないようだった。

 そんなわけで、僕は人間の人生には興味がなくなってしまった。生きている間は特に頭を使うこともなく、蜂蜜を舐めながらボーっとしているのが常で、何かを考えていたとしても、たまに蜂だった頃を思い出しては懐かしむばかりだった。

 そんな何とも言えない人生を送っていた僕だったが、ただ一つ、ふと考える願いがあった。

「来世は鳥になりたい」

 鳥という生き物は自由に空が飛べて、聞くところによると蜂なんかよりずっと遠くへ行けるらしいじゃないか。蜂蜜も良いが、いい加減飽きてきたし来世はのんびり空でも飛んで暮らしたいなぁ。

 なんてことを思っていたら、あっという間に僕の人生は終わってしまったのだった。


「あのぅ、今度は鳥になりたいのですが」

 魂だけになった僕は、また神様にお願いをしてみた。すると神様はまた少し笑って、ようし分かった。と言う。なんでも言ってみるものだ。

 しばらく神様と団らんしていると、そうだ。と、思い出したように僕を見た神様が、君は人間の時にあんまり頭を使わなかったものだから、まだ使ってない頭が残ってるんだけど、余った分は来世で使うかい。と、聞いてきた。なんだかよく分からないが、貰えるものは貰っておこう。僕は、はい。とだけ言って来世へと向かうことになった。


 そんなこんなで念願叶ってめでたく今度は鳥になれたわけだが、スクスクと育っていくうちにどうやら今の自分は思っていた鳥とは違うものであるという事を知る。周りの大人たちを観察して、自分の体もドンドンそれに近付いていくうちに、悲しい予想が現実なのだと思い知らされることになる。おいおい、これって。

「ダチョウじゃないか」

 前世で余った分の頭があるだけ救いがない。周りの奴らはバカばっかだし、そもそも自分がダチョウだって事にすら関心がないようだ。なんだったら、そっちの方が幸せだったかも知れない。だって空も飛べない鳥なんて、鳥生の楽しみは9割なくなってしまったみたいなものじゃないか。

 ただ、唯一ダチョウも悪くないと思えたことは、足が早いということだ。サバンナを思いっきり駆け回る気分はそう悪いものでもない。

 そんなある日、僕たちの群れは一匹のライオンに襲われた。僕も最初は賢く逃げ回ったが、なんだかダチョウにも疲れていたので最終的におとなしく食われてやることにした。

「あぁ、来世は何になろうかなぁ」

なんて最後につぶやくと、まさに今僕を襲おうとしたライオンがピタリと止まり、なんと僕に語り掛けてきた。

「おいおい、お前も頭が残っているのか」

 そこからは話が早かった。どうやら彼の前世は火星人で、僕と同じように使っていなかった頭を持ち越してきたらしく、今度は地球に行きたいと言ったらライオンになったはいいが周りになじめなくて独りぼっちになってしまったのだそうだ。

 そんな僕らが仲良くなるのに、そう時間は掛からなかった。ライオン君からは火星の思い出話を聞き、僕は地球の話をする。話の最後は決まって「知的生命体にはなるもんじゃない」だった。同じ知的生命体の苦労を分かち合ってきた僕らはずいぶん仲良くなって、ライオン君はどれだけお腹が空いていても僕を食べることはなかった。

 そんな僕らも寿命が近付いてきて、ライオン君は獲物が取れなくなってしまったし、僕もそろそろ動くことすら出来なくなってきていた。

「ライオン君。僕ももう寿命だし、もう僕の事食べちゃって良いよ」

 何気なく言うと、とんでもない。と、ライオン君は言う。

「そんな悲しいことを言うなよ。もし君が死んじゃったとしても、俺は君みたいな大親友の肉は食べられないよ。このまま一緒に死んでしまうのが良いのさ」

 そっか、じゃあ最期に少し話をしよう。と言って、僕らは何度も繰り返してきた互いの思い出話をする。話のオチは決まって「知的生命体にはなるもんじゃない」だった。

 そうこうしているうちに、僕は身体が限界を迎えそうだと悟る。

「来世でまた会えるといいね」

「そうだな、地球のどこかでまた会おう」

 そうして、僕はまた魂だけになった。

 天高く昇っていく途中でふと下を見ると、あのライオンの野郎、友情なんか忘れて僕の死骸をむさぼってやがる。今までの友情は何だったんだと叫びたかったが、あいにく魂に声帯はないのだ。悔しいが、何も出来ることはない。あの裏切り者め、もう絶交だ。なんて事を考えているうちに神様のもとへ辿り着く。


 僕は迷わずこう言った。

「あのぅ、今度は火星人になりたいのですが」

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