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黒のシャンタル 初稿置き場  作者: 小椋夏己
第一部「第一章 第一節 シャンタリオへ」(初稿)
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 4 託宣(初稿)

 なんとなく団子になってて読みにくいので、ちょっとは読みやすいかな、と思うぐらいにゆとりを持って文章を配置してみました。

「嵐の夜、助け手(たすけで)が西の海岸に現れる」


 シャンタルがそう言った。そしてマユリアがそれを聞いた。それが全てであった。

 それが「託宣(たくせん)」である。

 神によって告げられる人が従わねばならぬ運命を告げる言葉。


 王宮の侍従たち、神殿の神官たち、宮の侍女たちにその事実をマユリアが告げる。

 聞いた者たちは「託宣」の内容を吟味(ぎんみ)する。


 「託宣」の真偽を問う必要はない。

 なぜなら「シャンタルの託宣」は事実だから。


「西の海岸とはどこか?」

 

 最初の議題はそれであった。


 シャンタリオの中心に位置する神殿「シャンタル宮」は小高い山の中腹にある。

 背後にまだ高くそびえる山を従え、だがその位置からは遠くの海岸線までが見渡せる。

 「シャンタルの神域」の中心に位置する「シャンタリオ王国」その中心にある「シャンタル宮」より世界に慈悲の言葉を与える「慈悲の女神シャンタル」の目の届く範囲が「王都(おうと)リュセルス」と定められている


 リュセルスの西の端からは長く突堤(とってい)のように細い半島が突き出している。あまり大きな半島ではないが、そこから先は細長い山のように向こう側の海が隠されているので、半島の付け根あたりまでが王都リュセルス、その西は漁業で成り立つ小さな漁村の「カース」と分けられている。多分そのカースのあたりが「西の海岸」ではないか、そういう話になった。


「助け手とは?」


 こればかりは話し合ってもどうしようもない、とにかくシャンタルが「助け手」と言ったのだ、大事な方であることは間違いない。となると、どうお迎えするかが重要な問題だ。


「もしかすると新たな神の御降臨(ごこうりん)かも」


 などと言い出す者もあり、頭の痛い事態となった。


 なぜなら託宣の最初にある「嵐の夜」がいつか分からないからだ。日付がはっきりと分からないのでどう準備をすればいいのかもよく分からない。

 もしも本当に「新たな神」をお迎えするのなら、新しい神殿なりなんなりを準備しなくてはいけないが、もしも明日の夜にでも嵐が来るならとても間に合うものではない。


「一刻も早く準備しなくては」


 一番重要なのはそういうわけで時間となった。そのためにすでにある建物を神殿として準備する、そう決まると次は場所探しである。


「カースの海神神殿(かいじんしんでん)を借り上げるのはどうだろう?」


 そういう意見が出た。


 シャンタリオはシャンタル神を絶対神としてはいるが、自然と対峙(たいじ)する海の民たちは漁の安全、豊漁などを祈って海神を(まつ)る。そしてそれは特に禁止をされている行為ではない。なぜならシャンタルは唯一自分たちを守り、導いてくれる存在ではあるが、他の神もまた尊いからである。シャンタルは祀って当たり前、そして他の神は敬えばまた恵みをいただける、特に自然を守る神は。


 カースの神殿には海神と並んで、いや一段高くにもちろんシャンタルも祀られている。すぐそこの神殿に本物がいるが、その出張所のように、海神をも見守るように神殿から授けられた「シャンタルの分体(ぶんたい)」たる木製の(ふだ)(かか)げられている。もちろん他の地方の神殿にも同じようにこの札がご神体として掲げられている。カースの神殿のように他の神を祀る神殿でも同じ形式になっており、その神に(こうべ)を下げると自然とシャンタルにも頭を垂れることになる。

 それほどまでにこの国では、全く疑う余地もなくシャンタルは絶対の存在なのだ。


 早速カースに使者が遣わされ、小さな漁村は上を下への大騒ぎとなったが、網元(あみもと)でもある村長の指図の元、驚くことにたった一晩で神殿を磨き上げ、神殿から運ばれたり指定された様々な準備を仕上げていつでもその時を待つ支度が整えられた。そのために届けられたのは立派な家具一式、絹、貴金属、食料品など、一漁村には余りあるほどの質、量の物品で、漁師やその妻子たちは疲れを感じないぐらいの興奮を感じながら不眠不休(ふみんふきゅう)で準備を整えたのだ。


「嵐が来るのはいつなのか」

 

 最後の問題であった。

 なぜならシャンタルの名代(みょうだい)たるマユリアが嵐の前に仮神殿(かりしんでん)に入って助け手を待つと宣言したからだ。

 

「仮神殿とは言ってもシャンタル宮とは比べ物にならない粗末なもの、危険な嵐の間は宮にいていただきたい」


 そう言上(ごんじょう)してもマユリアは(がん)として首を縦に振らない。

 そもそもマユリアに何かを言える立場の人間はこの国には国王しかいない。王妃や王子王女であってもだ。その国王の言葉とて、同列にあるマユリアが聞くかどうかはマユリア次第だ。それほどまでにこの国におけるマユリアの地位は高いのだ。


 マユリアが移動する手段は輿(こし)だ。聖なる存在であるシャンタルとマユリアが穢れた大地に足を下ろすことは許されない。そのため、清められた聖なる神殿にしか体を置くことはできない。見渡せる位置にあるとは言え山腹(さんぷく)の神殿から輿を運ぶのにはそれなりに時間がかかる。もしも、運んでいる間に天気が急変したらその尊い身に危険が及ぶ可能性もある。

 それに仮神殿とは言っても元々は小さな漁村の小さな神殿だ、嵐の間に何かがないとも言い切れない。仮に建物が安心に足るものだとしても、そもそも漁村の人間にマユリアのお世話をさせるわけにはいかない。村のものだとて困るだろう。さりとて神殿からそれなりの人数を割くのもそれはそれとして大変だ。


「では神殿よりもっと近い場所にご滞在いただくのはいかがだろうか」


 そう言い出した者があり、カースにほど近い場所にある貴族の別荘がマユリアの滞在場所と定まった。そこなら高貴な人の世話にも慣れているし、仮神殿までほんの一刻もあればお運びできる。早速そちらにも手を加え、満足できる設えが整えられるとマユリアも腰を据えた。


 こうして問題は全て解決し、後は「その日」を待つばかりとなった。

 そして「その日」は託宣から十日後にやってきた。 

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