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黒のシャンタル 初稿置き場  作者: 小椋夏己
第一部「第二章 第一節 再びカースへ」(初稿)
18/27

15 本音(初稿)

文字数が少なかったのでダルの気持ちをもう少し掘り下げるのにちょうどいいと書き足しと書き直しをしました。それから王宮周囲で少し問題があることも、ここで初めて臭わせることにも。

「シャンタルは慈悲の女神でマユリアはその侍女だよ、そんなことするわけないよ」

「シャンタルやマユリアはそうでもその周辺の人間はどうだ?」

「それは……」


 ダルが考え込む。


「とてもそんなことするとは思えないけどよ、でも悪い人間ってのが王宮や神殿にいない、とまでは俺も言い切れないな」

「だろ?」

「周囲の人間はただの人間だもんなあ」


 ダルが仕方なくといった感じで認める。


「助け手だ助け手だってちやほやされてっけどよ、用事が終わった後で都合が悪けりゃそいつらに消されるってこともあるからな。そんだけじゃない、その助ける部分をやられちゃ困る連中がいたら、邪魔者扱いでどうにかされる可能性もある」


 ミーヤには説明しなかった「本気半分」の部分だ。


「ダルだからぶっちゃけるけどよ、俺はシャンタルとマユリアもそこまで信用できねえんだよ。おっと、怒るなよ?何しろこの国の人間じゃねえからな」

「うん、分かった」

「だからな、待遇(たいぐう)がよけりゃいいほど心配になる。今までがそんなにいい暮らししてねえからな。大抵親切に近づいてくるやつは下心があった。そう思って生きてきたから今まで生き延びてこられてんだよ」


 ダルはトーヤの厳しい生き方を思った。そしてそれを話してくれていることを真剣に受け止めた。


「だから逃げ道を探してた。機会があればとっとと逃げてやろうと思ってた。そのために利用しようと思ってたんだけどなあ、おまえも、ミーヤも……」


 うなだれてため息をつく。


「おまえらな、いいやつ過ぎんだよ。そんなんじゃ外の国じゃ生きてけねえぞ?」


 弱々しく笑うトーヤにダルも少しだけ笑う。


「俺は、大丈夫だよ。トーヤに剣を教えてもらってるしな。まあ利用もされたことだし」


 冗談口が今はありがたい。トーヤも笑う。


「俺も甘くなったもんだな。おかげでもう少し様子を見ようと思っちまった」

「そうか……」

「でもな」


 ダルを見上げ、鋭い目つきで言う。


「準備だけはしとく。いつでも逃げられるようにな。そのためだったらおまえもミーヤも利用させてもらうからな」

「いいよ」


 ふうっとダルが笑った。


「俺はトーヤの友達だからな、逃げる気になったらいつでも言えよ、手伝うよ」

「それからな、別れは言わないことにする」

「なんで?」

「言ったらお前ら、覚悟するだろうが」

「そりゃするな」

「そうなったらばれるかも知れねえ。特にルギなんてやつは鋭いからな」

「そうか」

「だから、ミーヤとの約束も取り消す。いきなり消えるかも知れねえって、おまえからそれ、言ってくれねえか?」

「なんで?自分で言えばいいじゃねえかよ」

「ルギにずっと見張られてるからな、うかつなことは言えねえ。そんでミーヤは俺といる時はずっとフェイに見張られてる」

「フェイちゃんが見張りなあ……」

「本人はそこまでの気持ちがあるかどうか分からんが、何かあったら上のやつに報告しなくちゃならんだろう。そんなかわいそうなことはできねえからな」

「そうか、そうだな。フェイちゃんミーヤさんにもトーヤにも(なつ)いてるもんな、辛いよな」

「だろ?かわいそ過ぎるだろうが、あんなちびにさ」

「うん……」 


 話をしている間に次第に空が(しら)んできた。

 夜明けまではまだあるが空の色が薄くなってくる。


「言えたら自分で言うが、もしも言えずに行った時はミーヤに言ってくれたらうれしい。おまえが知ってたこと、そう言ってたこと」

「分かった、約束する」


 「よっ」と崖を登り降りした時と同じ掛け声をかけ、トーヤが立ち上がった。


「そんじゃ帰るか~いい酔い醒ましになった!」


 ぐぐーっと伸びをして洞窟の壁に手をぶつけ「いてっ」と声をあげる。


「なにやってんだよー」


 ダルも笑ってトーヤの肩をぺちっと叩いた。


「そんじゃ帰ろう。夜が明けるまでに帰れるようにちっとばかり急ぐぞ」

「おう」

 

 2人揃って赤みを帯びてきた水平線に背を向けた。

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