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2)自ら巻き込まれた男

 数日後、カールは王太子宮に呼び出された。レオン・アーライルも招かれていた。

 恐れ多くも、アレキサンダー王太子と、貴族の跡取りであるレオン・アーライル、商人であるカールの三人で酒盛りになった。レオンがいるから大丈夫だと、酒を飲まないロバートは、アレキサンダーに追い出された。


「ロバートは、ここを追い出されたのをいいことに、図書館にローズを構いにいくだけだ。問題ない」

 自らワインを盃にそそぐアレキサンダーにカールは慌てた。

「気にするな。好きなように飲みたいだけだ。お前は知らないか?私は田舎で育ったんだ。ロバートの母親が乳母だった。なんでも自分でできるようにと育てられたんだ。ワインくらい好きに飲ませろ」

 レオンも、イサカの町にいたころのように、自らの手でワインを注いだ。

「酔いつぶれたら、自分の責任だからね。カール。心配しなくても、王太子宮内にちゃんと泊まらせてくれるから大丈夫だよ」 

「それは、恐れ多くて、安心できません」

 笑うレオンとアレキサンダーに、カールは絶対に酔いつぶれないようにしようと決めた。


「大丈夫だよ。目覚めた最初にロバート様の顔をみたら、酔いも一瞬で冷めるから」

「そんなこともあったな」

レオンとアレキサンダーの会話にカールは驚いた。

「え、じゃぁ、レオン様、ここで酔いつぶれたんですか」

「一度だけね。二度とやらない。あれは、心臓に悪い。起きた瞬間、ロバート様に『お目覚めですか』と言われたんだ。心臓が止まるかと思った」


カールがそんな目にあったら、大声で叫んでしまうだろう。申し訳なさすぎて、どうしたらいいかなんてわからない。

「ロバートは気に入った相手の面倒見がよいからな。酔いつぶれたお前の介抱をしたのはロバートだ。私の若い頃のことを思い出したと言われて、私まで恥ずかしかったぞ」

「えぇ、本当ですか、それ、初めて聞きました。あの、それ父には内緒にしてください。お願いします」

レオンが慌てて頭を下げた。


「問題ない。ロバートは、父上が酔いつぶれた時も介抱している。アーライル子爵を、ここで酔い潰せばいいだけだ。そのうち連れてこい」

「ぜひ、酔い潰してください。お願いします」

親たちを酔い潰そうとする貴族の息子達を、カールは何とも言えない気分で見ていた。言葉遣いが少々丁寧なだけで、自分達商人と大して変わらない会話だ。


「イサカの町で、ロバートは何をしていた。あいつは必要最低限しか連絡してこない薄情なやつだ。お前達とロバートは、イサカの町で何をしていた」

 アレキサンダーの言葉に、カールとレオンは町でのことを語った。自分の知らない腹心の姿を聞くアレキサンダーは楽しそうだった。アレキサンダーが救済した町が、活気を取り戻しつつあると言うと、喜んでくれた。自分の仕事が人を喜ばせることができると実感して、カールも嬉しかった。

「いつか、視察にいきたいものだ。あのあたりに王族がいくのは、ティタイトとの戦争のときくらいだ。そんな歴史を私は変えたい」

アレキサンダーの言葉に、レオンが盃を掲げた。

「イサカや周辺の町の者とも協力し、数年以内にはお越しいただけるようにしてみせます」

「レオン様のおかげで、年々道中は安全になってきています。おかげで、商売も順調です」

酔って気分がよくなってくると、カールの緊張もほぐれた。


 「一つお前達に協力してほしいことがある。イサカの町でのロバートとローズの功績を伝え、その二人を支えた王太子である私、アレキサンダーの権威を高め、イサカの町がより栄えるような物語を、吟遊詩人たちに国中で歌わせようと思う」

「吟遊詩人ですか」

「あぁ、もともとはローズの提案だ。イサカの町が疫病に関する噂のせいで、苦しむことがないようにしてくれと、言ったんだ。それもいい案だが、せっかくだ。あの二人の功績を国中に広めたところで、問題はないだろう」

「それは、面白そうですね。ですが、吟遊詩人に歌わせると言っても、どうされるのですか」

「協力といっても、私は歌など歌えませんが」

二人の言葉にアレキサンダーは笑った。

「問題ない。吟遊詩人はいる」

 

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