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1)好奇心は身を滅ぼしかねない

時期的には、本編第二章11)頃です。

 カールは、イサカの町で始めた新しい商売を報告するために、ほぼ定期的に王太子アレキサンダーへの謁見を申し込んでいた。最初は本当に報告だけだった。


 ある時、謁見当日、何かの都合でロバートとローズの二人が不在だった。会えなかったのは残念だが、良い機会でもあった。勇気を振り絞ってカールは、アレキサンダーに質問をした。

「アレキサンダー様。ロバート様とローズ様の御婚約は」

「まだだ」

途端に、アレキサンダーが苦虫を噛み潰したような顔をした。

「左様ですか。私はイサカの町の者に、良い報告ができるものと思っておりました。みな、お二人の御婚約を心待ちにしているのに、残念です」

カールは、前の謁見で見た、二人の仲睦まじい様子に、近々婚約するだろうと思っていたのだ。

「ロバートは馬鹿だ」

突然、腹心を罵ったアレキサンダーの言葉に、カールは自分の耳を疑った。周囲の近習は、アレキサンダーの暴言に平然としている。

「どこからどう見ても恋人だろうが。それなのに、ローズのことを妹だと言うのだぞ。本当にロバートはロバートだ。どうしようもない」

「へ?妹ですか」

思わず、カールの口から本音がこぼれた。

「申し訳ありません。あの、つい、あまりに驚いた、いえ、なんというか、妹ですか」

カールは、かつてイサカの町で寝食を共にしていたロバートのことを思い返していた。清廉潔白そのものの人柄だ。すべての女性に対して、礼節ある態度で接していた。道端で春を売る女に指一本触れることなく、孤児院や救護院で働かせるために雇ったような男だ。

「あまりに、ロバート様らしいと申し上げますか、それでも限度があると、いえ、失礼しました」

 女性に対して礼儀正しいと言えば、聞こえはいい。だが、そういう問題ではないだろう。カールには妹達がいる。神に誓ってもいいが、可愛い大切な妹達だ。だが、ロバートとローズのような仲ではない。絶対に違う。妹は可愛いが、可愛いだけではないのだ。

 ロバートは優秀な人物だが、あれほど大切にしている女相手に、男としてそれでいいとは思えない。

 

 あまりに驚きすぎて、不作法な言葉遣いをしてしまった。謁見に緊張しているとはいえ、商人たるものこれではいけない。背中を冷や汗が伝うのがわかった。

「お前もそう思うか」

「はい」

単刀直入なアレキサンダーの言葉に、思わず反射的にカールは答えた。アレキサンダーがにやりと笑ったのは、錯覚だと思うことにした。

 結局その日は何事もなく、カールは帰ることができた。


カールは、本編第一章で、ロバートの後任として、イサカの町に派遣された商人です。

第一章30)が初登場です。

第一章幕間 小さな連隊長 https://ncode.syosetu.com/n8184gu/

にも登場しています。

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