この世界では合同クエスト達成コンパを合コンといいます。~二年目~
合同クエスト達成コンパ、いわゆる『合コン』で知り合った男と、お付き合いをしている。
ネガティブで、コミュニケーション能力低くて、ついでに笑うと歯茎まで出てしまう私を詐欺にひっかけようとしていると思っていたが、二年経った今はそうでもないかもしれない、と思うようになったかもしれない。
そんなある日のことだ。
「俺のギルドメンバーに、君を紹介したいんだけど」
「なぜですか」
「なぜって・・・・・・」
コイツのギルドといえば、魔王討伐も期待される勇者ギルド。
そしてコイツは、攻撃から回復、さらにバフまで扱える高位魔術師だ。
全員高レベルでありながら見た目も上玉揃いで各地にファンもいると聞く。
そいつらに私を紹介して、コイツに何のメリットがあるというのだ。
私も高位剣士ではあるが、連携攻撃に支障をきたしかねないコミュ障を勧誘したがるだろうか。
となると、なるほど、つまりこういうことか。
仲間に私を値踏みしてもらい、今後も付き合うに値するか確認したい、と。
次の言葉を言いにくそうにしているわけだ。
「まあ、いいですよ」
「本当!?よかった!」
二年も付き合えば、今後について不安が出てくるのも当然だろう。
しかし、お前だけが値踏みできると思うなよ。
こちらとてお前がどういう交遊関係を築いているのかチェックして、今後も付き合うか否かの判断材料にさせてもらおうじゃないか。
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そして数日後、居酒屋に呼ばれて今に至る。
「まっさかこいつが彼女作るとはなァッ!ガッハッハッ!!」
「無理やりにでも合コンへ連れていった甲斐があったというものです」
「よっ、さすが弓使いっ!恋のキューピッドっ!」
なんて槍使いだ。
一体どれだけ大きな槍を扱っていれば、そんな声量が出せるというのだ。
個室という隔離された空間で、こんなマッチョが九十分も目の前にいたら耳が両方ともやられてしまいそうだ。
せめてその隣のいちいち動作がキザっぽい弓使いか、さらに隣のへべれけ合法ショタ従魔師ならよかったのに。
が、これも私を逃がさないための布陣だろうから仕方あるまい。
部屋の一番奥、しかも壁際の席に座るように勧めたのは、どう考えてもそのためだろう。
だがこれはむしろ好都合。
私は値踏みしにきたのだから、逃げるつもりは毛頭ない。
「ごめんね、アイツらうるさくて・・・・・・」
「大丈夫です」
計画通りのくせに、この男よくもまあ申し訳なさそうな顔が自然とできるものだ。
ただ会話をするだけなら少々気が滅入っていただろうが、ここは居酒屋。
この中で食事を楽しむ余裕を見せつつ、存分に観察するとしよう。
いや、まずは前菜を取り分けて、意外と気の利く女であると知らしめるか。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「遠慮しないで好きなもの注文して、じゃんじゃん食べてね」
「ガハハ!同じ女剣士だからって贔屓してらァ!!!」
「もう!贔屓なんてしてません!ほら皆も取り皿貸して!」
先手を奪われた。
通路側にモード系女剣士が控えていることを、何故私は忘れていた。
隣にコイツがいて見えなかったせいか。
否、彼女は隠蔽スキルを使い、その存在を完全に消していたのだ。
ここぞというところで、私のアピールを妨害するために。
曲がりなりにも私も女だ、その行動の意味は分かっている。
この魔術師に好意を寄せているのだろう。
「え、あの、俺の顔に何かついてる?」
「いえ、何も」
「ヒューヒューっ!見つめあっちゃって熱いねっ!」
「もう!そこ茶化さない!」
すぐに止めにかかるとは、さぞかし見ていたくないのだろう。
さっきギルドは結成六年目であり、ずっとメンバーが変わっていないのだと弓使いが言っていた。
女に興味がないのだと安心して長年片思いをしていたら、ポッと出の、しかも自分と同じ高位剣士に取られてしまったのだ。
その悲しみは正直よくわからないが、たぶんかなり辛いのだろう。
「一つお聞きしたいのですが、何故こいつと付き合っているのでしょうか?」
「どうして、ですか」
「勇者ギルドの一員だから?有能な高位魔術師だから?お金を持っていそうだから?」
「おい、なんてこと聞くんだよ!」
おや、コイツ戦闘時以外にこんな険しい表情をすることがあるのか。
それより問題は、この弓使いだ。
テーブルに両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってきて、まるで侵入者を取り締まる門番のような厳しい眼光。
間違いない、弓使いがギルドリーダーであり、今回の最終審判者。
さて、どう答えるのが正解か。
「どうなのでしょう?」
付き合おうと思ったのは、コイツが詐欺師だと思い、これ以上犠牲者が生まれないよう懲らしめてやろうと思ったからだ。
いまだに、やっぱり詐欺師でした、と言いだすのではないかと少し疑っているのだが、これを言うわけにはいくまい。
では、何故付き合っているのか。
「理由などありません」
「ほう?」
「気づいたら一緒にいる、それだけです」
変に話を作って怪しまれるより、こう答えたほうがマシだろう。
実際気づいたら二年も経過していたわけだし。
「「「「「気づいたら一緒に・・・・・・」」」」」
何かまずいことを言っただろうか。
無理やりにでもコイツの良いところを挙げて、男を立ててくれる女アピールをすべきだったか。
過剰にヒールをかけてくるところか、新しく買った装備をべた褒めしてくれるところか。
今からどれを言ったところで、より場を悪化させるだけだろう。
コイツが私から顔を背けてしまうぐらい、相当ひどい発言をしてしまったようだから。
「なんか、深ェ言葉だな、それ・・・・・・」
不敬な言葉、だと。
あれほど騒がしかった槍使いが大人しくなるくらい、破壊力があったというのか。
気づいたら、の何がそこまでいけなかったというのだ。
「そんなん長年連れ添った夫婦の域じゃん、茶化せないって・・・・・・」
従魔使いは、何かぼそぼそしゃべってるようだが聞こえないな。
急に酔いが回りすぎて吐きそうなのだろうか。
早くトイレにかけこんでもらいたい。
「そっか・・・・・・」
待って微笑んでる、モード系めっちゃ微笑んでる、怖い。
大した理由もなく私の好きな人を奪いやがって、ということだろうか。
店を出たら背後に気をつけなければ、これは確実に刺されるやつだ。
いつもの特性てんこもりワンピース着てきて正解だった。
「無粋なことを聞いてしまいました」
「いえ、その、大したことも言えませんで」
しかし平メンバーがどういう印象を抱こうが、最終的な判断はこの弓使い。
こいつの答え次第によっては。
「ちゃんと彼女を幸せにするのですよ」
「・・・・・・ああ、当然だ」
あ、ダメだこれ。
せめてもの情けで安らかに天国へ送れって意味だ。
幸せと書いて『死合わせ』と言ったのは、誰だっただろう。
とりあえず今は。
「失礼します!!!!!」
「「「「「え!!!!?」」」」」
転移アイテムを使って離脱だ。
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のちに女剣士は、恋バナの恥ずかしさに耐え切れず帰った恥ずかしがり屋と勇者ギルドの面々から誤解を受けることとなる。
なお、モード系女剣士が男魔術師に本当に恋心を抱いていたことは、未来永劫誰にも知られることはなかった。
読んでくださってありがとうございます。
魔術師が二年間仲間に紹介しなかったのは、女剣士がいつ自分に愛想をつかして別れを切り出すか不安だったからです。
女性と別れるたびに仲間に女運の悪さを嘆かれていた彼なので。
あと女剣士にひどい被害妄想癖があるって理解しているので、いつも誤解を解こうと必死です。
このまま無事ゴールインしてほしいですね。