神の試練に果敢に挑む…の2
キーウィもなんともない。オーギもなんともない。アルバートはできるだけ自然にルリの方を叩いた。
「なあルリ、ってぇ!!」
アルバートが仰け反ったところにルリが振り返る。
「えっ…アル、どうかしました?」
「………。」
手の平の痛みが治まるまで硬直。
「……今日は……その、どのあたりに行くつもりなんだ?」
まっすぐ立って後ろ手を組んだ。よく見るとまだ少しプルプルと小刻みに震えている。
「今日はですね…」
ルリは地図を広げ全員に伝わるように話を始めた。
(………おかしい。)
ルリの邪悪を退ける加護があるのは聞いていたし、最初は警戒されて普通に触れることもままならないことは理解していた。
だが一向に彼女から受けいられる様子はない。それなりに仲良くなれているつもりではあるし、相手が自分に対して信頼を寄せているのも察している。
食堂から部屋に戻る途中で、アルバートはオーギとフリティアをこっそり呼び止めた。
「二人はわかるか、ルリのあれについて。」
聖なる守りは護衛につくものに事前に知らされている。初めてルリに触れるものは皆、まずその洗礼を浴びせられることになっているのだが、異性か同性かによって拒絶具合が違うのも、その他ルリとの接し方についての注意事項がまとめられたマニュアルが護衛たちには配布されている。もちろんアルバートは盗んだ書類一式に目を通している。
その守りの解除される条件がわからない。
マニュアルにも書いてないので、解除できないものだとアルバートは思いこんでいた。
「くくく…あなたはルリ様に心の何処かで警戒されているのですよ。」
フリティアは勝ち誇る。
「私も最初は痛みを感じましたが、神官としてそこから逃げるわけには行かなかったので、強引に。」
オーギは力技でゴリ押しが好きなようだ。
「つまり耐えてりゃいいのか?」
何度も言うように耐えられるはずもないほどの激しい痛みなのだ。痛みの種類も肌を突き刺す鋭いものから、骨の髄まで響く鈍いものまで、選り取り見取りである。
「俺だけだぞ。未だに拒絶されてるの。」
「私はルリ様と死線を越えることでいつの間にかなくなっていましたね。」
「私は日々付き添い、体を癒やして差し上げていたら。」
「いや、二人はわかるんだ。だが、あいつ。キーウィのやつもなんともなさそうなんだぞ。」
これにはフリティアも驚いていた。
「…痛覚もバカになってるんじゃないですか。」
ひどい言われようである。
アルバートも否定しない。
「どんなに体を鍛えていても耐え難いもの、だと説明があったよな。」
マニュアルの一説を引っ張り出してきて確認をする。今までアルバートがなんとか耐えていたのは窮地に立たされているが故だった。しかしキーウィにはそんな素振りもない。
「要するに自分だけルリ様に拒絶されるのが辛い、と。」
「意外と繊細ですね、あなた。」
「違うわ!」
アルバートが必死になるほど滑稽なのか、フリティアはますます余裕の表情を見せる。
「何やら贈り物をしていたみたいですが…それもだめだったと。残念、無駄でしたね。それよりも、そういう物で釣られないあたり、流石にルリ様は聡明ですわ。」
「だぁっ…!もういいわ、自分でなんとかする!」
アルバートは踵を返し、一人で部屋に戻っていった。