自称勇者は許される…の4
丘の上のチャペルなんてロマンチックではないですか。それは立地に対していっているのではないだろう。
太陽眩しい海沿いの街が眼下に広がる岬のチャペルは、若いカップルからいつか式を挙げたい場所としてとにかく人気が高い。占い目当てでやってきた男女が、必ず目を奪われるぐらい尊いような、商売を司る天神様の社よりも神聖な場所に見える。
「流石にこの時間は人が少ないですね。」
つぶやくようなルリの声でもはっきりと聞こえる。
中に入ることはできないが、景観のために周りをライトアップされているのはこのチャペルも同じ。この辺りの光源はここぐらいしかないので、暗闇の真ん中にありながら控えめに静かに輝いている。
あたりにいる人々は騒ぐことなくじっと建物を見たり海を見下ろしたりしている。時折、一言二言会話を交わしてまたすぐに黙る。手をつないだり肩を寄せ合ったりする人が多い。
ルリはちらりと後ろからついてくる二人の男たちのことを見た。
「どうした?」
アルバートがそう問うと首を振って前に向き直ってしまう。
「…巫女様もここで結婚式を挙げたいんですか?」
ルリは飛び上がった。
静かな空気に耐えられなかったのかキーウィが無粋なことを聞いている。
「なんですか、急に!」
「いやぁ、巫女様も女の子だしなと思って。それにやっぱり巫女様もお年頃じゃないですか。」
ひどくいい加減な理由である。女の子なら〜女の子だから〜と、とりあえず深い意味はないそれっぽいことを話すキーウィにはルリもほとほと困ってしまう。見かねたアルバートはルリに助け舟を出す気持ちで口を挟んだ。
「…まて、男でも憧れていいだろ。」
「えっ?」
(……アル、もしかしてここで結婚式を挙げたい…ってことですか?)
アルバートの唐突な発言にキーウィよりもルリのほうが驚いている。
(だとしたら…誰とだろう…。)
「アルバートさん、意外とロマンチストなんすねえ。」
「その雰囲気ぶち壊してんのはどこのどいつだよ。」
周りの人にもこの会話が聞こえていたのか、一瞬睨みつけられ距離を取られた。
「アルバートさんは、そろそろ身を固めないとって思ったりしないんですか?冒険者って言ってもいつまでやっていけるか…あ、騎士だからそんな困らないのか。」
書類上、アルバートは騎士なのでそう思われるのは仕方がない。
(でもいまする話じゃねえ。)
「婚約者とかいるんですよね?」
たいていの騎士は貴族と同等かそれ以下の立場なので、その地位を落としてはいけないとある程度親が相手を見繕ってくる。
だがインチキ騎士のアルバートはそんなもの全くない。
「いや、いないわ。」
短く真実のみを伝えた。
「あ、それモテるからですか?いいなあ、俺も果てしないほどチヤホヤされたい。」
さっきまで女子扱いしていた巫女様がそばにいるにもかかわらず、下世話な話をやめる気がない様子。そういうところである。
「……でも実のところ誰か狙ってたり…?」
ニヤニヤと顔を近づけてくる。アルバートはそれを振り払った。
「…やめろよ、もう。俺は今、ルリの護衛なんだから、ルリのことしか考えてないわ。」
おっと。
少しはっきり言い過ぎたと思いアルバートは口に手をあてる。
「そ、そうなんですか?」
ルリがキョロキョロと目を泳がす。言い方が気持ち悪かっただろうか。