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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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世界が闇に包まれる…の9

 宿のおやじから依頼された強盗団の盗伐をこなすと、今日の宿代がタダになり壊した扉や床の弁償もしなくてよくなる。

 3人は宿を出て大通りに面した飲食店で昼食をとりながら今日の方針を立てていた。

「割に合わんわ…」

「何でですか?それにこっちにも非がありますし。」

 足元を見られていることに二人は気づいていない。タダになるのは『今日』の分だといった。しかも、チェックアウトの時間を既に過ぎてしまっているのでこの時点で二泊目の料金が加算されている。つまり明日のチェックアウトの時間までに依頼を完了しないと、また二部屋分の料金を払うことになる。

「そんなアコギなことはしませんって。」

 キーウィがヒラヒラ手を振ってアルバートの言い分を聞き入れない。アルバートは討伐にかかった日数分の料金をすべてキャッシュバックしてくれるとは思えなかった。こっちに火があることは間違いではないが、時間がかかればかかるほどしゃぶりつくされる。

「時間のことが気になるなら今日行ってサクッと倒せばいいでしょう!」

 そういってキーウィはズッとイチゴジュースを吸い上げる。この自称勇者の無鉄砲さには感服するほかない。やはり自らを勇者というやつにろくな奴はいない。

「昨日襲われたときは10人程度でしたよね。キーウィさんはそれを上手く捌けたのだから、そこまで実力はない…と見ていいんじゃないんですか?」

 それぞれの装備品の不揃い具合や、武器の手入れの行き届いてなさ、奇襲の練度の低さを見ると、ただ落ちぶれた力自慢たちが集まっただけに見えるので「実力がない」というルリの見解は正しい。正しいが、今まで3人でろくに戦闘をしてこなかった弊害が出てきている。

 アルバートは戦闘するのが嫌いである。血を見るのが怖いとか、人を傷つけたくないとか、そんな慈愛に満ちたヘタレの理屈ではない。単純に、斬りあいをすると無駄な体力を消耗する。ケガなど負傷はほぼ避けられない。目的外のことに時間を奪われる。何か物を失ったりするかもしれない。とにかくデメリットは挙げればきりがない。軽微な代償を払ってリスクを回避するというのがアルバートの信条である。世界を救う大冒険はとにかく省エネがいいのだ。

(約束バックレて次の街に走るのでもいいが…)

 そうはいかない。ルリは心優しく芯が強い少女。その頑固さに手を焼くこともあるが、若いながら正義と信念を貫こうとする姿勢はアルバートもキーウィも評価しているところである。そのまっすぐすぎる優しさが心の不安定さと合わせて彼女の危うさでもある。ルリが「困っている人のために」といったのなら、どんなに周りの者が諭そうともそれを曲げることはない。キーウィと二人でいるところに初めてアルバートが合流した時もそうだった。

 それともう一つ、逃れられない理由が、この3人は『救世の巫女』を守る正義の一団である。逃げ出したら宿帳をもとに役所に訴えられかねない。待ちゆく誰もが『救世の巫女』がここにいるとは気づかないが、協会の者たちやこれから合流する仲間には伝わってしまう。正義の看板に傷をつけることができないのだ。

「二人はまだ甘え。」

 あるバードは声のトーンを落として凄むようにいった。

「昨日の昼間の集団が強盗団全員なはずはねえだろ。先兵が10人で活動している時点で敵の拠点には2,3倍の量がいるとみていいだろう。それに…」

 アルバートはキーウィがまだ持ってきていた寸胴鍋を小突く。

「これが落ちてた川上に奴らの根城がある。つまり、これを使ってたのは奴らの可能性が高い。」

 規模は少なくとも2、30人と見ていいだろう。

 キーウィはそれを聞いて不敵な笑みを浮かべながら鼻の頭を触る。

「一人で10人…相手にとって不足なしですね。」

「…お前の底なしの自身はどこから来るの?」

「へへ、勇者はハートが大事ですからね。」

 ニヤついてキーウィはプレートメイルの胸のあたりをトントンと叩いて見せる。

「……話を続けるけど、ルリが10人を相手取れるとは到底思えないな。」

「は、はい…。」

「それに、怪我でもさせたらまずい。怪我ならいいが…大事に至る可能性もある。」

「その時は、このマジックライフポットで…」

 ルリは意気揚々と真鍮のオイルランプのような形をした魔法具を取り出す。

「俺はそれを使わなきゃいけない状態にしたくないんだよ。」

 アルバートは頬杖をついてルリの出鼻をくじく。あまりにも真剣に取り合ってくれないので、ルリも少し落ち込んでしまった。キーウィが頭を撫でて慰める。

「あ、それはいいです。」

 良かれと思ってやったのに、手を払いのけられた。キーウィの底なしの自身は早くも尽きてしまいそうである。

 そして訪れる沈黙。ルリは下履きをギュッと握りしめた。

「わ、私も…仲間です…」

「わかってるよ。」

 ルリは顔を上げた。アルバートも彼女の気持ちの一辺はわかっているつもりである。だがそれ以上に、先も自分で述べたように怪我をされる危険は冒したくくない。

「だから、俺たちはルリのことを置いていかないんだ。」

 ルリはアルバートとキーウィの顔を交互に見つめた。キーウィもうなずく。ルリはもう泣き出しそうだった。しかし、いつものようなじっとりした空気は漏れていない。室内だというのにカラッとした風が通り抜けた。

「本当は、下調べをしたいところなんだが…」

 時間がない。予想を立てた最低人数で作戦を立てることにする。

「もう一人の仲間と合流したほうがやりやすいとは思うんだけどな。」

 この街にきているはずの仲間を探し歩くことはできる。だが、敵の拠点とこの街で往復する時間を考えるとあまり猶予がない。

「本当なら生活用水で使っているところに毒投げこめば一発解決なんだが…」

 突然あまりに物騒な作戦をこの場を取り仕切る年長者のアルバートが言い出したので、正義に燃える二人は慌てふためく。

「それはあんまりじゃないですか?」

「水を抑えるのは上策だろうよ。敵は閉鎖された鉱山に潜んでんだろ。ああいうところは有毒ガスが多くて奥にはそう簡単に進めないし水と入り口を抑えれば労せず勝ちが見える。」

「アル、それはだめです!近くの川を汚すなんて、アルは考えちゃダメ!」

 ルリは顔を真っ赤にしてアルバートを糾弾、否、叱ってきた。毒を投げ込むこともそうだが、アルバートがそういうことを言い出したのがショックだった。

「一度に相手をするのが難しい…ということは…」

 憤慨するルリの横でぶつぶつとキーウィがつぶやきだした。彼なりに作戦を考えているのである。

「あっ!わかりました、これはどうでしょう!」

「はい、キーウィ!」

 ルリは怒っていた勢いで、挙手するキーウィを指さして発言を許可する。

「聞けば、閉鎖された鉱山は出入り口が一つだけとか。」

 キーウィはルリとアルバートとそれぞれに目配せをした。

「そこを抑えて、巫女様の炎魔法で一網打尽にするんです!どうです!一発で片が付きますよ!」

 興奮しているのか手を大きく広げて叫ぶキーウィ。周りの客にも一部が聞こえたのかぎょっとされている。

 その作戦のあまりのエグさにアルバートもルリも絶句する。

「…いや、お前…マジで言ってんのか…」

 何とか嘘とか最悪冗談で済ませてくれ、そんな外道なこと良く思いつくな、と祈るようにキーウィの様子をうかがう。だが当の本人は自分の言ったことの重大さをよくわかっていないようで、画期的だと思い込んでいる作戦に酔いしれているようだ。

「う、うーん…わ、私はちょっと今日疲れてるからなー…そんな強いの出せないかもー。」

 あのルリまでうそぶく始末である。心底引いていてまともに取り合いたくないようである。

「あーそれなら仕方ないわなー。」

 アルバートも調子を合わせてキーウィから目をそらす。

「しかしこれぐらいしか…」

(お前もう黙ってろよ!)

 店の中でなければ怒鳴り散らしているところである。昨日の女のこともあって目立ちたくないアルバートは静かな怒りをこめて立ち上がるキーウィの脇腹を殴った。

「夜襲にしよう。」

 アルバートが言った。キーウィは息苦しそうにイスに倒れこんでいる。

「私もそれがいいと思います。」

 二人の相談によって作戦は決定した。息の時間を考えると少しだけ時間がある。この時間を使って装備を整えることにした。

 だが困ったことにここは宿場町で観光地。旅行客が多く旅人の入りは少ない。武器や防具、危険な旅の必需品を取り扱っている店は全くないといっていい。それもこれも街の警備を警吏たちがしっかりやっているお陰だ。アルバートとキーウィはもともと持っていた装備で何とかなるが、下にチェインメイルを着こむぐらいしかできないルリが問題だった。重装をできるほど力はないし、二人とも女性用の鎧は携帯していない。

 だいたい彼女の持ってきている道具は魔道具に偏っていて、身を守るものは少ない。

「これは一応悪しき者からの攻撃を防げるようになるマジックシールドなんですけど…。」

 悪しき者の判断があいまいである以上、これを採用するわけにはいかない。なぜなら以前ルリがこれを構えてた時、アルバートがただ少し肩を叩こうとしただけなのに、加えた倍以上の力で跳ね返されてしまった。あの時の痛みは忘れない。

 ルリ本人が持つマナによる防御も傷をつけられないというわけではない。昨日の昼抱っこができたように無理やり通せば刃物ぐらい通ってしまう。

「すぐに調達できる首回りも守れるような鉄の鎧…」

「いやー参りましたねえ。」

 痛みから回復したキーウィが頭をかく。

 その時ふとアルバートの目にあるものが目に留まった。

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