自称勇者は許される…の3
「寝る準備をしてたんだから今日は辞めたらどうだ。明日俺たちが案内してやるよ。」
と、アルバートが一言言えばルリは引き下がっただろう。
オーギとフリティアをそれぞれの部屋に残して三人はでかけた。流石に彼女を連れて酒場にもいけないし、キーウィが目当てにしていた女の子に接待してもらえる酒場にもいけない。安心安全、健全な夜の散歩である。
「お前が言ったんだぞ、夜景を見たいって。」
「そうなんですけど…。」
キーウィはこっそりこの街についてから、道を歩く女性たちを見てはその都度期待を膨らませていたようだ。この街は美人が多い。交易の街はその性質上、愛想の良さ勝負なところがある。売り子たちも隣に負けじときちんと化粧しているし、交渉に行く者は皆身なりを整えて臨んでいる。そういう店の水商売はさぞ極上のものだろうとキーウィは勝手に興奮していたのだ。
それが自分のまいたタネによって潰されてしまうとは…。目に見えて落ち込むキーウィをアルバートは小突く。
「今日はもうほかで楽しどけよ。もう少し落ち着いたら探すの手伝ってやるから。」
「本当っすか!」
キーウィが飛び上がったので、周囲の人が驚いた。
「…アルとキーウィはどこか行きたいところがあるんですか?」
純粋にこの夜の賑わいを楽しんでいるルリが振り返る。だが男たちは真の目的を口に出せるはずがない。
「無理言ってついてきちゃいましたからね。二人が行きたいところも行ってみましょうか?」
とんでもない。
ニコニコと何も知らない笑顔。
「いや、今のは行きたいところをこれから探そうかって意味だからな。今日のは本当にただの散歩。」
「そうですか……?」
「それよりルリはどこに行きたいんだ?」
「えっ?……えーと…。」
「あの丘の方まで行ってみません?」
キーウィにしては妙案であった。喜んでルリは丘の上のチャペルを目指した。ほっと胸をなでおろしてアルバートとキーウィはその後ろを歩いていく。
夜だというのにどこかのストリートミュージシャンがこの街の賑やかさに華を添えている。三人がチャペルの方まで歩いていけばいくほど、その音は小さくなり、やがてあたりに静寂が訪れた。