凄腕占術に夢中…の9
アルバートがルリたちから離れている間に入った店は、普通の魔具屋のようにみえてどことなく異質な感じがした。世の魔道士用の道具を取り扱っている専門店は各地にあるのだがこの店はその中でも更に特別な雰囲気を醸し出している。
この街の名物の一つの敏腕占い師本人がプロデュースした商品を多数取り扱っている。どれもこれもその占い師が祈祷し呪術を施したというお墨付きだ。
この日もお客さんでごった返す店内。魔具だというのに普通のおじさんおばさんもやってきている。アルバートは店内を見て回る。
(お守り…お守り…)
ルリの様子から彼女が何度も仲間と離れ離れになったことに不安を覚えていたことは察せた。だからこそ、気を紛らわせるようなお守りを贈ろうと考えていたのだ。
「うーん…?」
しかしいまいち観光地用の品物ばかりで、店に入ったときほど特別な感じがしない。こういうときの勘は冴えている方だとアルバートは自負していたのだが、どうやら外れだったようだ。
諦めて出ようとしたときにふと目についた品物が一つ。
「……すみませーん!責任者の方いますー!?」
慌てて店員を呼んで品物の値段交渉をする。ペアで買うなら三割引と相手を妥協させた。向こうも売りさばいてしまいたかったのだろう。はじめは難色を示されたが、なんとか上の条件をのんでもらうことができた。
きれいな藍色のクリスタルがはめ込まれたリングである。どうしてこれが売れ残っていたのか、おそらく控えめな見た目には釣り合わない「永遠に離さない」なる重すぎる名前の商品だからだろう。
だが一度店から出してしまえば商品名など関係ない。きれいな銀のリングである。アルバートはペアで買ったことと名前を伏せてルリに渡すことに決め、意気揚々と彼女たちのもとへと舞い戻った。
だが彼女は勝手な行動をとったアルバートを責めた。こっちの気も知らないで、とどうしても折れることはできそうになかったが、一度腹にこの地方の郷土料理を入れて落ち着くと、冷静になれたからか考えを改めることができた。
ボリュームのあった魚介スープの小麦そぼろは、まるで皿を洗ったかのようにきれいに平らげられた。
お腹をさすり満足そうなルリにアルバートが横から声をかける。
「ルリ、ちょっと後で一人で外に来てくれないか。」
また勝手なことを、とルリは少し思ったがアルバートが直接謝りたいというので迷う。アルバートと二人きりなるのは、ルリにとって嫌なことではなかった。
しかしさっきあんなことを言った手前…
「…だめか?」
しおらしい態度を見るとますます悩んでしまう。
「み、みんなに行き場所を告げたら…。」
ルリは負けてしまった。