凄腕占術に夢中…の5
可憐な少女の周りに彼女に似つかわしくない屈強な男女が四人。歩いているだけで悪目立ちしそうだが、ここは貿易の街。要人とその護衛であろうと想像されるだけで、街の売り子たちは騒がず、彼女らのような一団には慣れっこであった。それどころかどれほどお金を落としそうか値踏みをしているほどである。
「なんだか見られている気がします…」
「まあ当然だわ。」
アルバートは周りからくる視線を確認しつつも、あまり興味がなさそうにあくびをする。
「ルリ様、欲しいものがあったら何でもお申し付けください。」
フリティアはどこから資金を得ているのか、まだまだ懐が潤っているようだ。その時ちらりと彼女の財布が脇の露天商のあきんどに見えてしまったのか、突然声をかけられる。
「あ゛ァん?」
ガラの悪い威圧感のある睨みをきかせてあたりを見回すとすぐに相手が引き下がっていく。
「…それで、オーギさんはアルバートさんとあったわけですね。」
「渡りに船でした。」
キーウィはオーギとアルバートの冒険譚をせがんでいる。そんなに大した旅でもないのだが、オーギが大げさにアルバートのことを褒めるものだからキーウィの胸に響いている様子。
「いえ、しかしアルバートさんは素晴らしい。離れていてもルリ様をお守りすることを第一に考えていらっしゃる。」
自分の名を急に出されてルリが気にして振り向いてきた。
「アルがですか?」
「はい、素性のわからぬものを全く信用していませんでしたから。ちょっとした情報も与えまいという意思を感じました。」
まるで貶しているかのような褒め方である。
「いや、その節はどうも…。」
バツが悪そうにアルバートは頭をかいた。信用していなかったのは事実だが、まるまる見抜かれていたとは思っていなかった。
アルバートはこっそり近寄る。背の高いオーギを少しかがませてから耳打ちをした。
「あの態度はもう謝るから、あんまり悪く言わんでくれよ。」
「いえ、決して悪く言うつもりは。ただただその隙のなさに感服していたまでです。」
でもバレてんじゃん。
「……いつぐらいから嘘ついてるって気づいていたんだ?」
オーギは自分の団子鼻をツンと叩いた。
「香りですよ。」
「馬鹿な。」
匂い消しは常に行っている。村についてすぐにシャワーを浴びたほどだ。
「ルリ様のジャコウのような芳しさがあなたの荷物からしたのでね。」
彼女の寝具を持っていたのは間違いだったか。しかし、気づかれるようなレベルの匂いは放っていない。それこそテントに鼻をつけるぐらいしか…。今まで会ったことはないが、写真にてひと目見ただけでそのような香りがするだろうと想像していたという。
「匂いがしたことはあんまりルリに言うなよ…。」
デリケートな時期である。体臭のことを指摘されるとルリだって恥ずかしいに違いない。
「当然ですね。」
やはり只者ではない…。少しその危なげな嗅覚にアルバートは恐怖した。なにせ地下牢では全く睡眠ガスの異臭に気づかなかったのに、ルリの匂いは嗅ぎ分けることができるようだ。案外、若さゆえの過ちを起こしかねないキーウィよりも注意が必要かもしれない。
「二人してなんの話をしているんですか?」
ルリは男二人がヒソヒソ会話をしてるのを見て首をかしげる。
「誤解してたのを謝っていただけだよ。」
「そうでしたか。みんなこれからも仲良くしてくださいね。」
「ええ、もちろんです!ルリ様!」
フリティアがいの一番に答えてルリの手を取った。
(……あれ?)
フリティアが全く痛がる素振りを見せていないのにアルバートは気づく。
(同性だとアレは発動しないのか?)
いや、そんなはずはない。一度あの聖なる加護が発動していたのかものすごく痛そうに弾かれていたのをアルバートは見ている。
(それじゃあ、今もしかしてルリに触れるのか…?)
考えているアルバートに向かってルリがニヤリと笑った。
「……アル、なんか変な目で見てきてません?」
「ええっ?!…いや、ちっともないって、そんなこと」
図星をつかれても落ち着き払ってアルバートは首を振る。
「……どうだか。」
ルリはそういうとなぜだか頬を膨らませてぷいっと前に向き直ってしまった。
通りの前の方に人だかりができている。通行止めになるほど道いっぱいに広がって先が全く見えなくなった。
「わー、なんでしょ。」
キーウィが背伸びして手を額に当てながら先頭を確認する。
「黄色い声が上がるときはだいたいその先に有名人がいますね。」
たしかに時々、キャー、と男の声とも女の声ともつかない嬉しい悲鳴が上がってくる。
「………迂回しますか。」
フリティアはそそくさと角を曲がった。ルリたちもそれに続いていった。