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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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世界が闇に包まれる…の8

 清掃員の悲鳴でキーウィは目覚めた。まさか、アルバートとルリの身に何か起こったのか。彼は剣をとりドアをぶち破って廊下の奥へと走る。

「どうしましたか!」

 驚いて腰を抜かす従業員が指をさした先には――。

「あ、アルバートさん…。」

「おう。」

 彼の眼球は飛び出しそうなくらい力が入っている。体の支えに使ったのか剣先を床に突き刺して柄に寄り掛かっていた。アルバートはキーウィの姿を見かけると眼力が一層強まった。口角を釣り上げて笑顔を作りながらまだ寝間着姿のキーウィに語り掛けた。

「よくぅ…眠れたかぁ…?」

(あ、これ、怒られる奴だ。)

 すると『K1』のドアが開きルリが、寝不足と疲労感でフラフラしているアルバートの背に激突した。

「あっ!ごめんなさ――。」

 ルリが謝り終わる前にアルバートはすごい音を立てて倒れる。慌てて二人が駆け寄ってゆすったが、苦しそうな寝息を立てているだけだったのでひとまず安心した。

 アルバートが目を覚ましたころにはすでに日が高く昇っていた。まだ寝ぼけたままの頭を揺さぶりながら部屋の様子を確認する。アルバートの全身がすっぽり入るベッドの上に横たえられていて…枕から少し甘い香りが…。

「んっ!?なんで俺ここで寝てんだ!?」

 しかも軽装を解かないまま。

 これはどう見てもキングサイズのベッド。昨晩、いや今日の明け方、交代の見張り番をするつもりだったのに、一向にキーウィがやってこなかいせいで持ち場も離れられず、意識がもうろうとしていた。まさかふとした拍子にルリの部屋に紛れ込んでしまったのではないか。いやその前に一度起きたような気もする…。

「あ、アル。おそようございます。」

「は?」

「ふふ、もうお昼食べちゃいましたよ。」

 ルリは無邪気に少し張ったお腹をさすって見せる。

 そうか、そんな時間まで…

「じゃない!俺、なんでここで寝てんだ?!チェックアウトは?!キーウィは何やってんだ!?今日の目的は!」

 頭が覚めてくると一気に気を遣わなければならないことが湧き上がってくる。果たして自分が寝ている間に二人だけでできていたのだろうか。

 今日は(本当は昨日)、旅の仲間がまた一人、この街で合流することになっていた。合流するまで、協会が定めた仲間はその街にとどまり続けるため、ルリたちの方から探されるのを待つというのが基本になっている。

「チェックアウトは、その。」

 後ろからキーウィもやってきて顔をのぞかせる。

「喜んでください、今日の宿代タダになるかもしれませんよ!」

「はっ?」

 アルバートは頭を抱えた。タダになる条件があまりにも無謀な話だったからだ。

 それは、爆睡してしまったアルバートをルリのベッドに運んでからのことである。

「これでよーし、アルバートさんもつかれてたみたいですからねえ。」

「…そうですけど…その、アルが私が寝てたところに寝るというのが…なんとなく…」

「大丈夫ですよ、ああ見えてあるさんきれい好きなのか変なにおいしないですから。」

「あ、わかります。アルは結構匂いを気にしてますよね。」

 腰に垂らした小袋に臭い消しの薬草が入っているのをルリは少し前に見かけた。彼がたまたま体を洗い終わったところに鉢合わせてしまった時だ。ルリは慌てて顔を伏せようとしたが、軽鎧の下からはあまり想像ができないしっかりした胸板に目を奪われてしまい、結果としてじっくり、彼がその薬草を耳の後ろや脇などにこすりつけるのを眺めてしまった。

「そんなに男の裸が珍しいか?」

 などとあまりに真剣に見ていたものだから笑われた記憶がある。

 ルリとキーウィがアルバートの意外な一面を笑いあっているところに、宿のオーナーが先ほどの騒ぎを聞きつけあがってきた。『208』号室の無残に蹴破られた扉と、廊下の板を割りながら床に突き刺さっている剣が目に入り絶叫する。

「す、すみませんでした!」

「敵が来るかもと思って…」

 その後二人並んで頭を下げる羽目になり、どうしても許してもらえなさそうなので、何か手伝えることがあれば弁償したいとキーウィが申し出た。この旅は人々を救うための旅なので、『救世の巫女』であるルリも断る選択肢が存在しない。

「我々、ある目的のために道中で人助けをしているのです。」

 ルリはうんうんとうなずく。オーナーのおじさんはそれに乗ってくれたのだ。

『ならば、道中の強盗団を壊滅させてくれ』

 とのことだった。その無法者たちはルリ御一行も遭遇して襲われた。その時の恨みもあってか二人は二つ返事でその仕事を引き受けた。

「なんでそうなっちゃうの…?」

 頭痛がする。二人に聞いたが、わかっているのは根城の位置だけで、規模もリーダーのことも被害額のことも判明していない。

「違うんです、ここのお宿さんは最近お金持ちが車に乗るようになって集客が減ってしまったそうなんです。そして唯一徒歩で来てくれる方々はその道中の賊に襲われて身ぐるみをひっぺ替えされてしまい、結果、誰も寄り付かないということに…。」

「駐車スペースがないので車で観光しに来た人たちからは需要がないと嘆いていました。」

 ルリはズイッと前に身を乗り出す。

「アル、これは人助けです!四神様もきっとおほめくださるはずですよ!」

「こんなん害虫駆除のボランティアだろ…。」

 アルバートとしては一刻も早くこの町から離れたい。せっかくキーウィに危険を伝えたのに、彼は巫女の意見を支持してしまいこの町から離れるという考えが薄いようだ。しかも、巫女様本人もやる気に満ち溢れている。服装もこれまでの袖の長いものから、腕まくりをすれば肩がはだけてしまいそうな涼し気な服を着替えている。髪もいつもの流しっぱなしではなく、後ろで一つに縛ってしっぽのように揺らしている。気合は十分である。

 アルバートもそれ以上は何も言わず頭をかきながら戦自宅をした。


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