危急存亡の秋…の11
地下の一角に閉じ込められた。明かりをかざしながらこの場所の状況を確認する。今まで呑気にしていたキーウィもこの事態には少々驚いているようだった。
「だめです、完全に閉鎖されています。」
「なら、この壁を壊すしかないですね。」
フリティアは手頃なハンマーをカバンから取り出した。
ひと呼吸おいてから、
「ふんっ!!」
降りてきた壁を力強く打ち付けた。しかしさすがに片手用のハンマーではそれほど威力が出ない。
ドンドンと鈍い音を立てながら、壁が少しずつ傷ついていく。
「しばらく時間がかかりますので、少し離れたところで休憩なさっていてください。」
ハンマーを一回転させて石壁を叩いた。
「ああっ、こらこらやめてください!」
急に暗闇の方から男の叫び声が聞こえた。
ルリが声のする方向にライトを当てると闇の中からぬっと、頬の垂れた猫背の男がひょこひょこ現れた。
両手を体の前で揃えて歩くたびにプラプラさせている。
フリティアはハンマーを持ったまま現れた男に向かって構えた。これ以上近づいたら問答無用で殴るという物騒な警告である。
男はその瀬戸際でピタリと止まった。
「あなたは?」
低い声でフリティアが問うと、男は卑屈そうに腰を低くして一礼した。
「へぇ、あたしはここの管理を任されてるハツネという者です。」
「なぜ閉じ込めたのです?ここは一体?」
この男がこの閉鎖された空間やってきたのだから出入り口はどこかに存在しているに違いない。
「ここはその、まだ準備中でして。少し盛り上がりにかけるラルドの街の砦の新しい目玉を用意しようかと。」
「ほら!やっぱりお化け屋敷だったんですよ!」
キーウィがはしゃいで立ち上がる。
「では、先に来た人たちは?」
「それはですね…」
ハツネという初老の男性は痩せこけた頬をすこしかいた。
「テストプレイヤーとして街にいる若者たちにちょっと噂を流すんです。『幽霊が出るぞ』って。ほらここに来るのってお年を召された方か、マニアぐらいでしょう?」
そう言われて見れば、砦の下に広がる土産の売り場を抜けてから若者たちをそんなに見なかった。
「まあなんといいますか、リゾート地から離れた寂れたところにしていてはもったいないと、役所が動きましてね。私はアドバイザー兼、チーフコーディネーターとしてここに派遣され活性化に努めているのですよ。」
見た目には似つかわしくないご立派な肩書を並べてハツネは自己紹介をした。
「なるほど、そうでしたか…私達はてっきり…」「武装された方々がやってきたのは初めてで」
ルリは立ち上がってハツネに向かって頭を下げた。
「ハツネさん、すみませんでした。知らなかったとはいえ暴れまわってしまい…。」
「いえいえ、怖がっていただければ何より。」
愛想のいい笑顔を浮かべてハツネは手を振った。
「それで、先に入った人たちは?」
ハツネは自分が現れた暗がりの方向を指さした。
「こちらの先に出口があります。…いやしかし貴重なテスト結果が得られましたよ。ありがとうございます。」
どうやら彼によると先に行って叫んでいた若者たちも無事のようである。ほっと息をついてルリは案内に従った。
「いえ、こちらこそ。今思い出してみたら楽しかったかもしれません。」
ルリは二人を引き連れて闇の中へ進んでいった。