危急存亡の秋…の9
フリティアが前に出て二人を制止した。唇に人差し指を当てて静かにするよう促す。耳を済ませると、何かのすすり泣くような、呻いているような、何かの音が聞こえてきた。フリティアとルリで手をつなぎ、ダイオードライトの明かりを落とす。
「あの、俺は一人ですか。」
しつ、と暗闇の中のキーウィを叱った。
あたりの様子をうかがいながら、三人は一歩一歩声のする方ににじり寄っていった。
角の向こう側からその声は聞こえる。フリティアは自ら顔をのぞかせて声の出所を確かめた。
「……?」
うすらぼんやりと、そこには怪しげな靄が光っていた。ルリから出たものではなく別のもののようだ。
「何かありました?」
キーウィが尋ねてくる。
「いや…何故かあの部分だけ発光しているように見えます。」
暗闇に目が慣れてきたキーウィもフリティアと場所を入れ代わるようにして角の先を覗く。
「あっ本当だ。」
「鬼火…でしょうか。」
「『オニビ』?」
人の霊魂の結晶みたいなもので、ゆらゆらと燃えるようにマナが揺らめいている。とされている。
「そもそもマナって可視化できるんですか…?」
キーウィの疑問はもっともである。マナ由来のものは目に見えないエレメント、と言われているはずである。
「強力な力がはたらけばあるいは…」
なるほど。彼女の無自覚な暴走を何度かみているとうなずいてしまう。
「巫女様、あれは怖くないんですか?」
「人の形をしてないので…あと、どちらかというときれいな部類かと…」
ルリが怯えるのは人間の形をしたもののようだ。
靄の正体が本当に鬼火なのかはわからないが、ダイオードライトの強い光をもって照らすことにした。
ライトのスイッチを入れると一筋の光が一瞬で現れる。その光を靄に突きつけるようにして進んでいった。
「…?」
光に当てられると靄が突然生き物のように動き出す。だが動き出すだけで特に何かをしてくる様子もなかった。
「よし、ここは俺が見てきましょう。」
「えっ、キーウィ待って…!」
ルリが止めようとしたが勇み足でさっさとキーウィが靄に突っ込んでいった。
「うへっ!?」
靄の中心でキーウィが暴れる。
「キーウィ!」
言わんこっちゃない。二人が駆け寄ろうとするとようやく靄の正体がわかった。
暗闇で発光する小さな羽虫だ。
壁いっぱいに張り付いていて、キーウィがドタドタ足を踏み鳴らしながら歩いてきたものだから驚いて飛び回ったらしい。キーウィは体をバタバタさせながら飛び交う虫たちを追い払っていた。
虫はもう克服済みである。ルリはダイオードライトの光に感謝しつつ風の通り道を作った。虫たちがそれに乗ってどこかへと飛んでいく。
「はぁ…ありがとうございます。」
口に入ってしまったのをペッぺと吹き出しながら、キーウィは渋い表情のルリに感謝した。