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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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世界が闇に包まれる…の7

 そして3人は街の薄暗い、うらぶれた、とにかく寂しさの漂うエリアに立ち入った。先ほどとは別の意味で危ない雰囲気を醸し出している。ルリは節操のないアルバートに対して怒っているので周りの様子があまり目に入らないようだ。今はそのほうが好都合。

 酒が回っていい気分なのか歩道で大の字になったり、猫と喧嘩をしているおじさんまでいる。有り金をすべて摩ってしまったのか、すってんてんで店から放り出される若者もいる。路地の端のほうに目をやると、土下座して派手な服で着飾った女性に何かを頼み込んでいる男もいた。とにかく、ダメな小金持ちの見本市がこの通りで行われていた。

「この辺りの宿は安そうですね。だって」

「みなまで言うなよ。」

 アルバートはこういう空間になれているが、ルリが冷静になってこの街のありさまを見たらどう思うだろうか。しかしさすがに街中で暴走するほど心は揺さぶられないだろう、せいぜい人間に失望するぐらいだろうか。

「いやあ、こうはなりたくない。」

 誰が聞いているかもわからないのに、キーウィは思ったことをすべて口に出す。

 同感だがアルバートから返す言葉はない。呆れた調子を隠すことなく、周りを見渡すと一軒だけ宿の字が見えた。

「とりあえずこれ以上は夜も遅いしもうあそこにするしかないか…。」

 アルバートも一日の疲れがさすがに体に現れてきた。ルリもまだ怒ってはいるが歩みは遅い。疲れを感じさせないのはキーウィぐらいである。しかもまだ寸胴鍋を背負っている。

 三人はゾロゾロと宿の中に入ると、受付のおじさんがそれまで見ていたテレビから離れてやってくる。

「遅くまでどうもお疲れ様です、お泊りで?」

「隣り合った二部屋、空いてるか?」

 顔にこぶのあるその受付のおじさんは3人を一瞥する。うっすら下品な笑顔を作って先頭のアルバートにこっそり耳打ちする。

「へっへ、隣り合っちゃねえがキングサイズベッドのある部屋が空いてんですよ。そこ一つと、廊下の反対側の奥シングル部屋でいいですかね。」

「それでいいよ。3軒向こうの宿より安くしてくれるなら。」

 その辺りはちょっとルリを連れていけないような休憩所があったのをアルバートは見逃していない。

「うちは安心安全、健全をうたった店ですよ。そりゃもちろん安くしますって。」

 こんな接客をする店だからなかなか客入りが悪いのだろう。キングの部屋がツインの部屋の値段になった。

「はい、これ、鍵ね。バスルームはそれぞれの部屋についてるんで。朝食は一階の食堂でどうぞ。宿泊客用のパン一個無料券もついてますんでね。」

 『208』『K1』と書かれたルームキーを二つ預かり三人はのろのろと二階に上がった。廊下を見ると床の所々がくすんで埃っぽい。さすがに正装はやっているのだろうか細かいごみはあまり見られないが、よく過度になっているところを見ると埃や髪の毛がたまっている。

「うーん…さっきのところがよかったです…。」

 アルバートのせいでいい宿を逃したと思っているルリがここの寂れっぷりに悲しむ。

「まあまあ巫女様、アルバートさんの武勇伝が聞けたわけですし。」

 それは褒めてるのかおちょくってるのか。どちらにしても鼻につく。

「あんなの…武勇伝なんかじゃないです…」

 口をとがらせるルリ。前の街での出来事を通して彼女も思うところがあった。

(アルは、ちょっと女の人にだらしないところがあるとは思ってましたけど…悲しませるようなことだけはしないと思ってたのに…。)

 反省をしているのか何を考えているのかわからない、遠い目をしているアルバートをルリは見つめた。

(やっぱり明日はその人を探して謝らせよう…。)

 ルリは一人で決心を固めていた。

 『K1』は廊下の隅。隣接する部屋と少し距離をとって作られているようだ。

 鍵を開けると、意外なことに隅々まで整理された部屋を目の当たりにした。とはいっても壁には修復した跡があったり、吸気口が少し黄ばんでいたり多少の年月を感じさせるたたずまいである。寝床は清潔そうなのが幸いだ。

「ルリの部屋はここでいいな。」

 そういわれてルリとキーウィが驚く。

「待ってください、それはさすがに不味いでしょう!巫女様と俺らのどちらかが一対一…!?」

「ア、ア、アル!…アルバート!わ、私はシングルベッドの部屋でしょう?!」

 アルバートは頭を抱える。誰がどうして護衛対象と同衾に至ろうと考えるのか。出会ってひと月ほどもたたないうちに、仲間の女性に手を出すほどアルバートは落ちぶれてはいない。しかし、ルリは本気にしてしまったらしく心が揺れ動いて、例の嵐を巻き起こそうとしている。

(いっそ本当にそうして俺だけここで離脱すっかな…)

「…これはな、俺の配慮だ。」

「あてっ」

 余計なことを言ったキーウィをとりあえず殴って黙らせる。

「ルリ、勘違いすんな。お前が一人でこのベッドを使っていいっていうことだ。」

「じゃあアルは…その、部屋の隅で寝るんですか?」

 少し落ち着いたルリが警戒しながらたずねてくる。どうもルリの中では、一緒に部屋に入るならアルバートのほうがいいらしい。

「違うって、ルリがここで寝るなら俺らはどちらも部屋に立ち入らない。」

 そう言ってアルバートは背負っていた、ルリに必要そうな道具を一つ一つ下していく。

「…一人はいつもの通り見張りに立ってるってことで。」

「えーせっかくのベッドなのに!」

(キーウィの奴は本当に言いたいことしかしゃべらないな。)

 この辺りにはまだルリを探している怪しげな人間がいるかもしれない。『K1』の部屋は何に配慮しているのか知らないが窓は少ないので、入り口だけふさげば問題がなさそうだ。

「で、でもそれじゃ二人に悪いような…。」

「ルリよ…」アルバートはいつもの調子で目を閉じて語りかける。

「お前がここで一人で寝てくれないと、俺とキーウィが同じベッドで寝ることになるんだぜ…。」

 ルリは赤くなって口元を抑えた。

「じゃあ、お、お言葉に甘えて~。」

 恥ずかしそうにしながら『K1』の部屋にルリは入っていった。扉がしっかり施錠されたのを確認すると、今度はキーウィに先に寝るようアルバートは促す。

(さすがにあの女が来たときにすぐに戦えたほうがいいからな…それにあのアホも昼間賊とやりあってるわけだし疲れてんだろう。)

 アルバートは去り際のキーウィに耳打ちをした。ルリには心の平穏のため秘密にしておくが、戦えるキーウィには警戒してもらう必要がある。

「なぁんだモテ自慢じゃなかったんですか。」

「おいおい、ふざけてんじゃないんだぞ。」

 キーウィは相変わらず緊張感の薄い男である。だが、それくらい肝が据わっていたほうが逆に頼もしさを感じるときもある。アルバートはこの時ばかりは相手を注意するだけでその背中を見送った。

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