危急存亡の秋…の6
すべて演出である。打ち捨てられた感じ、ホコリっぽさ、色あせたバナー。人が管理している証拠に、冒険者がはしゃぎ回らないようにするための順路と、関係者以外立入禁止のポール。お手に触れないでくださいの看板。
手前の市場のおかげで賑わっているが、この場所自体は本当にがっかり観光地である。廃城好きはまず近寄らないだろう。
そしてフリティアにとってもう一つがっかりなのが、そんな普通の雰囲気のせいで怯えていたるりが徐々に平常心を取り戻していることである。
(はあ…ふいの抱きつきが…)
二人に気づかれないところでフリティアは肩を落とした。
「あっ、ルリ様。下が汚れてしまいますよ。」
「本当。ティア、ありがとう。」
ルリはちょんと袴の裾を持ち上げて歩いた。
三人は砦の外周、長廊下に差し掛かる。矢を射かけるための小窓が等間隔で設置され、今はそこから午後の光が差し込んでいた。
「んー…思ったより面白みがないっすね」
「キーウィが見たいって言ったのに…」
キーウィの言い草にルリが呆れる。何かでそうか、と言われればそんなことはない。外から見た雰囲気はまさしく、霊が出ると言われてもおかしくはないが、中に危険がないよう整備されているのは当然のことであった。
立ち去って無駄にしてしまった時間を取り戻そうと考えた矢先、前を行く若者たちが立ち止まってなにか話し合っているのが見えた。
「…?なんでしょうか?」
「さて?」
ここは放っておくのが吉である。
「この先に…?」「本当?」「間違いないって…」
立入禁止区域の手前で弾むような声を抑えながら彼らは額を寄せ合っていた。
誰も見ていないと思っているのか、やがてこっそりとその立入禁止のポールを越えていった。
「……幽霊探しでしょうかね。」
「追いかけるか、警備員さんに今のを報告したほうがいいですよね…?」
かまう必要はないとフリティアは首を振る。出るついでに入場券もぎりの従業員に言えばいいだけである。
その彼らが消えていった柵の前を通ったとき、その先から悲鳴が上がった。
「何っ!?」
ルリは飛び上がって、フリティアの腕にしがみつく。フリティアは心の中でガッポーズをした。
「……この先は地下につながってるみたいです。」
キーウィが指をさした先にはランプ。その明かりが曲がり角を照らしている。その曲がり角の先から漏れる明かりが確かに、目の前のランプより低い位置に見えた。
救世の巫女として、この先へと進むしか選択肢が残されていなかった。