危急存亡の秋…の5
観光地までの道が賑わいを増していくごとにルリの口数は減っていった。道行く人が馬に縛り付けられたキーウィが現れて目を見開いて驚くが、当の本人がヘラヘラと笑っているので不思議そうに見送っていく。
「あ、見えましたね。」
小高い丘のにそびえる沈黙を守る廃砦の佇まいは、まるでやってくる人に警告を与えるよう。昼にもかかわらず何故かそのあたりだけは薄暗く見えた。
「へぇー!あれがっ!あっ!」
ルリが急に声を出したものだから馬が少し驚いて加速した。
キーウィはどうだかわからないが、フリティアは気づいていた。ルリはかなり怯えているが平成を装っていることを。その精一杯の虚勢がなんだか愛おしく見えてしまう。本来ならばその恐怖心を察して、慰めたりしてあげるところなのだが、必死に気丈に振る舞うルリをその目で見てしまった。
(もしかしたら、驚いた拍子に抱きついたりしてくれるかも…)
「あわよくば」を狙い、フリティアは悪魔に魂を売った。
砦の付近にはちょっとした市場ができている。幽霊騒ぎがあるにもかかわらず、そのことを逆に利用して盛り上げているようだ。砦へと続く道は明るく、活気がありすぎるほどでかえって砦の陰鬱さを強調してしまっているとも言える。
「ちょっと観光していきますか?」
と、冒険好きの勇者キーウィが馬から降ろされながらいう。そんな暇はないです、とフリティアが口を出す前に、ルリが答えた。
「いいですよ。望むところです。」
すまし顔で答えているが無理をしているのはありありとわかる。ちょっぴり膝が震えている。コーリングしたらすぐ離れますからという言葉よりも先に、フリティアの体がうずいて気づいたときには砦への入場券を三人分購入していた。
「いやー自分結構こういう歴史的なところ好きなんですよねえ。」
ずんずんと女子たちのこともお構いなしに、先へと進んでいくキーウィ。
(置いていきましょうか…)
呆れてものも言えない。がしかしキーウィがこうやって張り切ると、ルリもそれに張り合うように砦の入り口までみずから進んでいく。
(あらあら。)
防衛の要所であったこの砦。今では訪れる者を誰でも受け入れる。幾重にもなった石垣はきれいに補強され、攻められても善戦した感をだした、とでもいうのだろうかところどころわざと崩されている。
雨ざらしになったのか緑の苔が生えたり足元には雑草が勢いよく伸びて石垣の一部をのみ込んでいる。
蛇行する道を登り砦へとたどり着いた。
その時、中から男の叫び声が聞こえた気がした。だがその音は小さく、聞き間違いだったかもしれないとフリティアは思い直す。観光客がちらほらいるがこのあたりは粛々として緊張感のようなものが漂っていた。