危急存亡の秋…の4
かつてこの大陸を二分する大きな戦があった。戦乱の中で海神の山から天神の岬までは交易のための重要な地点。ラルドの港を押さえることが国内外の物流を制すると言っても過言ではなかった。
さて、ここに一つの砦がある。
貿易港の最終防衛ラインとして機能していたのは遥か昔、今となっては郊外の観光名所の一つとして有効に再活用されている。
ラルドの公的機関丁寧に管理され、壁には苔がむし、石垣の一部が崩れ屋内は人など何世紀も足を踏み入れたことがないかのごとくどこか寂しさもあり埃っぽい。まさに観光のための廃墟として“美しく”保たれていた。
「それがこの頃どうも良くない噂が出ているとかで。」
フリティアはこのあたりに詳しいのか、並走するルリに説明始めた。キーウィは落ちないように荷物のように縛り付けられている。
「………それは…ど、どのような…?」
「なに、幽霊を見たとかそういう妄言です。おそらく魔法などによるものでしょう。つまるところ何者かがその廃墟に住んでいる、と。」
「へぇ…人間。なら…大丈夫、ですよね。」
ルリは前を見つめながら言った。言い終わったあと瞬きの頻度が増えた。
「ちなみに、その道の前は通りませんよね?アルと一緒になるなら、そのそっちはーー」
「近くの村に連絡をしなくてはいけませんからね、一度そちらに立ち寄る予定ではあります。」
昨晩の逃避、今朝の病院、急な折返しのため急いできたせいで村で待つ神官に連絡ができていない。そこでコーリングと呼ばれる連絡手段を取る。魔道士が発明した通信機をできる限り再現した代物で、持ち運びはできないものの、指定したコーリング装置間で直接顔を突き合わせなくても会話ができるという代物である。大陸全土の各町各村に数台の設置が義務付けられていて、公的機関の管轄であるその廃砦にも当然存在している。
「……そ、そうでしたか。」
ルリはフリティアのきちんとした説明を聞いてどういうわけだか俯いてしまった。
「巫女様!危ないですよ!」
「わかってます!」
荒縄でぐるぐる巻かれたキーウィを突っぱねるような返事でルリは鼻を鳴らした。
目立つランドマークならば、巫女を付け狙う者たちもそう簡単には手を出せまい。全てはルリを守るためなのだが、ルリは誰にも言っていないがオバケも苦手であった。本人は自ら好んで死地に赴くような感覚である。
(そうは言っていられませんよね…うう、でも…)
不安がルリのマナをかき乱していた。