危急存亡の秋…の3
アルバートを待つか新しい仲間を迎えに行くか。ルリたちはラルドの街にて進退窮まっていた。
「フリティアさんなら自分が待ちぼうけくらってたらどうします?」
「ルリ様のもとへ駆けつけますね。」
一切の迷いがない。
「キーウィ…ティアに聞いたところで、それはティアだったらって話ですから。」
ルリの発言は正しい。メンバーが揃いも揃って心酔しきっていられたら流石にしんどくてしょうがない。これはルリの成長のための旅でもあるのだ。甘やかさないで一人の大人として扱ってほしいのが本音である。
それはキーウィやフリティアには察せないところである。
「アルバートさんを二人が待っている間に俺がその神官を迎えに行くっていうのは?」
ルリは肯定しなかった。
職業だけで名前も顔もわからないのだ。そんな合流の方法は普通存在しない。しかし現にルリの顔は一方的に知られ、仲間たちは出会うまでお互いを全く知らない状態である。
「ルリ様には旅の仲間の職業だけ伝えられていますからね。」
ルリが予定の書かれた手帳を開く。この手帳、紙の端を紐でくくり、合成樹脂のカバーで覆っている。留め具には銀が使われて錆びない。
1ページをぴらっとめくり二人の前に差し出した。
傭兵、騎士、傭兵、神官……
「これ初めて見たんですけど、俺の職は勇者じゃないんですか?」
「勇者は仕事じゃないですからね。」
キーウィは愕然とする。
むしろ今までどうして勇者、冒険者のたぐいが職業だと思っていたのか。
彼は悔し紛れにアルバートの肩書に文句をつける。
「でもそれなら騎士も職業では…」
騎士号は称号の一つではあるが、騎士だといえば騎士団の一人だったり一定の領地を治めているはずなので選定の指針になる。個人の肩書としては十分であった。
「協会側の判断もいい加減ではあります。」
フリティアも自身のことを傭兵だとは思っていない。そもそも身なりからしてそれなりに裕福な家のでなので傭兵業などやらなくても暮らしていけそうなものである。
「私のところも巫女様の下僕にしていただかないと…」
何をどうして彼女はこんな思考をしているのか。
「み、みなさん。私はともに旅する大切な仲間だと思っていますので…」
職業は関係ないよ、という意味だ。
「いえ、巫女様それは流石に畏れ多い。」
とキーウィはその場でトントンと自身の胸プレートを叩いた。
「ルリ様の行く先ならどこへでもついてまいりますらね。地獄の果まで。」
それは勘弁してもらいたい。
「私は奈落には堕ちたくないです…。」
このように冗談を交えながら、結局三人はアルバートと道中で合流できる可能性も考え、神官の待つ村を目指すことにした。
いつものように徒歩で、と行きたいところだが無駄にする時間の多さとルリの寝具がないことを鑑みて別の移動手段が必要である。
「ルリ様にご納得いただけるよう、車ではなく…」
フリティアは馬を2頭用意した。
「ではルリ様!私とご一緒に!」
いつの間にかズボンに履き替えていたフリティアがルリを鞍までエスコートして跨がらせる。ルリは過去の経験により、馬乗り袴に履き替えてきているので十分安全に座ることができる。キーウィのおかげといえばキーウィのおかげだ。
「ひゃあ!ティア急に…!」
フリティアは後ろからルリを抱きかかえるようにして一緒に乗る。
(い、いけない…だめだとわかっていても…はぅ…)
恥ずかしがって身をよじるルリのことが愛おしくなりすぎた。
「ほーら、ちゃんと掴まってないとだめですよー」
聖なる護りも解けて調子に乗り出すフリティア。くすぐったりつっついたりしながら思う存分楽しんでいた。
「あっあのぉ!」
そして後方からキーウィの声。しかしフリティアは気にせずルリにいたずらを続ける。
「二人とも待ってくれませんか!いやっ、ちょっと…なんか!」
「ティッ、ティア!いひひ…キーウィが呼んでますよ?」
ルリが後ろを確認しようと体をひねる。
「ねぇ!あのぉ!」
あまりの必死なキーウィの声にちょっと苛立ちを覚えながらもフリティアも振り返る。
そこには鞍にまたがれず。馬に舐められて嫌がられるキーウィがいた。
フリティアは慌てて馬をなだめに回る。
「どうどう!」
なれた手付きで馬を見つめて、フリティアが馬を落ち着かせた。
「………あの、キーウィ。あなたまさか…。」
「やー難しいっすね。馬ぐらいすぐ乗れると思ってたんですけど。」
キーウィは乗馬ができなかった。
もうこの時点で置いていきたいがルリを守る人間が減っては困る。かといって今からこのレンタルした馬を返すのはお金と時間の無駄。悩むフリティアに器用に手綱を操りながら馬上からルリが声をかける。
「あの、私は乗れますので、ティアとキーウィが一緒に乗るのは…?」
ルリの方に座らせると当然座るのがルリ、キーウィの順になり、下手くそなキーウィはおそらく落ちる。かと言って前をキーウィにすると身長差もあってルリが前を確認できなくなる。
「すみません、フリティアさん。」
ルリとのお楽しみの時間を奪われたフリティアはこの時、顔が二度と戻らないほど顔が苦悶で歪んでいたという。