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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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誰かさんを忘れてる…の8(終)

 清廉の都ラルド。海に面したこの街に追っ手をまいてやってきたルリとフリティアとキーウィの三人。

 幸いフリティアの傷はそこまで深刻なものではなく、応急処置の甲斐もあって多少の痛みは残るものの、医者が言うには痕は残るがしばらくしたら治るとのことであった。ルリはほっと胸をなでおろす。

「でも、傷痕が残っちゃうんですよね…ティアは美人なのに…ごめんなさい、私のせいで。」

 白い街のさらに白い病院からでてルリが肩を落とす。それに反してフリティアはすこぶる機嫌がよかった。

「なんの!逆に痕が残ると聞いてうれしいぐらいです!」

「え、どうして?」

「この傷はルリ様をお守りした証!身に刻まれる思い出でございます。」

 肩を抱いて身を震わせ恍惚の表情までしているフリティア。

「大げさだなあ…アブッ」

 心配事がなくなった途端、余計なことを言い始めるキーウィに鉄槌が飛ぶ。

「…とにかく、次の社を目指しましょう。天神様だそうですね?」

「はい、それもそうなんですが…」

 あの男のことである。負傷したことにより一時はルリの意識のすべてが自分に注がれ恐悦至極であったのだが、一段落着いてもまだ安心しきることができない様子。

「一体どこで何をしているのやら。」

「……はい。」

 死んでいる、とは思えなかった。キーウィが言うにはあの男は逃げ足が速い。危機回避能力にたけているので、ギリギリまで追い詰められても機転を利かせて脱出できるのだという。自分が合流するまでに何があったのかはあずかり知らないが、キーウィもキーウィでなかなかの信頼を寄せているようだ。

「まあ、ルリ様。せっかくの都です。おいしいものもきれいな服もございますよ。どうせ行先なんて絞られていますから待ちながら観光でもしましょう。」

 明るい通りの方をさしてルリを街へといざなう。

 太陽が照り付け活気のあふれる白の都がラルドである。海神さまの聖域で見たような、石灰石の白さがまぶしい。背後に見える低い山と目の前に広がる海。ちょっとした息抜きはもってこいの観光都市である。ラルドの名前はこの青緑の海の色と木はないが夏になると草花でいっぱいになる山の色からとられた。穏やかに凪ぐ潮風が気持ちいい。

 三人は宿を探して、落ち着いてから街の市場へ向かおうということにした。完全に旅行気分である。

「ふんふん、なるほど。この辺りならピンキリですがやはり見どころが多い街はいいホテルも多そうですね。」

 役場が設置した観光案内地図の看板を眺めながら、側に置いてあった無料配布のガイドブックを二つほどとる。

「あ、どうも。」

 キーウィに一つ、二人で一つ、である。

 これ見よがしに肩を寄せてガイドブックを開きながらルリに相談する。どさくさに紛れて肩に触ったり髪の匂いをかいだりするのもフリティアは忘れてはいない。

「天変地異が起こっているという割にはこの街は穏やかですねぇ。」

「噂では、この街の有名人の占い師が強力な魔法使いで災害から守っているとかいないとかですよ。」

「キーウィ、あなたいつの間にそんなこと調べたんですか?」

「あ、いやこのパンフに書いてあって。」

 占い師の特集ページが組まれるほどこの街の目玉である。魔道士同士一度あってみたいという気持ちもルリにはあるのだろう。キーウィの開くページをじっと眺めていた。いや、もしかしたらこれはもっと単純な理由なのかもしれない。

「ルリ様、心苦しいのですが…この方は人気が高すぎて予約待ちでいっぱい、だと思います。さすがに。」

「あっ、いえ!?全然ちょっと気になるなーってだけですから?旅行じゃないのはわかってますよぉ。」

 占いに行きたいという気持ちを必死にごまかす。そのあまりの身振り手振りの愛らしさに思わず鼻血が垂れてしまいそうであった。

(わかりやすすぎる…)

「機会があったら来ましょうねえ。」

「もう、ティアったらそんなに行きたがっているように見えましたか?ふふふ、子供じゃないんですから占いなんて。」

 お金払って本格的に占ってもらうのは大人の方が多いのだが。まあ良しとしよう。

 フリティアはにやけながら深くうなずいた。

「さて、とにもかくにも、今日の宿ですね。」

 気を取り直してルリのそばでもう一度ガイドブックを開く。

「わあ…街の丘にチャペルがあるんですねえ。」

 清らかなイメージが強いのか、ここで結婚式をあげる若いカップルも多い。ルリも年頃でこういうのには目が離せないようだ。すぐに目的から脱線してしまう。

(ああ、でもいいですね。)

 ぷにぷにとルリが自分に当たるたびに無垢な感触が伝わる。もう結婚してもいい。

「ティア?」

「…!?いえ!何も、結婚など考えておりませんよ!」

「ティアは美人ですから素敵な方と出会えそうですね。」

(いまままさに出会っております…。)

 感慨深げに立ち止まって晴天を仰ぎ打ち震えた。

「チャペルといえば…ルリ様ー。」

 間抜けな声で雰囲気を崩してくるのがキーウィだ。彼のおかげである種の冷静さを取り戻せているので一概にダメとは言えない。たまに水を差されないと興奮して間違いを犯しかねない。

 心酔するのもここまでいくと病気である。

「どうかしましたか?」

「次に合流する方って神官だとかおっしゃっていませんでしたか?」

 ルリがピタリと立ち止まる。その表情は何かを思い出そうとしているようで意識がどこかに飛んで行ってしまったかのよう。やがて…

「ああーーっ!!忘れていましたーー!」

 ルリが通りで叫んだ。通行人が驚いて通り過ぎながらこちらに振り返った。

「ル、ルリ様?」

「急いであそこを離れてちゃってたから…!山を下ってすぐの村で合流する予定だったんです!ごめんなさい!ああっどうしよう!?」

 オーギ・アエロ・ハルピュ・ド・モーキン。次なる旅の仲間である。

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