誰かさんを忘れてる…の1
アルバートは荷物を整えルリたちを追うために辺りを確認する。この場では置いていかれたが、よもやルリのことだ、アルバート自身を見捨てることなどはできないだろう。
「さて…」
まだ日も高く、朝起きてからそれほど時間が経っていないことがわかる。常識的に考えれば麓あたりで待っていてくれるはずだ。アルバートは通りに戻った。
ロープゴンドラに乗ればすぐに追いつくことができる。だがここでアルバートは考えた。ルリがいつも言っているあのセリフ。
「修行の旅なんですから。」
彼女がこだわっていたところである。
(…しかたない、少しぐらい付き合おう。)
アルバートは許しを乞うため下山コースを選んだ。選ばなくてもいいのに。
土地勘がなくても盗人であった彼はあまり道に迷わない。それにハイキング用のコースなど安全に作られているので間違いようがない。
アルバートはのしのしと背中の荷物を揺らしてゆっくりと下っていく。人数が一人増えたのにもかかわらず、荷物の負担が若干増えている。それはやはり、フリティアが女性だからだ。中でも女物の服やメイク用品など何かと入り用である。
アルバートが持つのはルリ用の寝具と調理器具、調味料込み。男性用着替え剣と弓と矢とナイフ。針金などの細工用道具。一番重いのはルリのテントぐらいだ。しかしそれも一人用。
これに対してフリティアがいろいろ持ってきた。先のスイーパーのような機械などそれなりに重いものを揃えてきている。それのいくつかすぐに必要ではない壊れても良さそうな機械をいくつか担当することになった。
「……それでもまああの時ルリを抱えて走ったよかマシだな。」
アルバートは一歩一歩ずしりと地面にめり込むたびに苦笑する。
山道は昼にもかかわらず、光が遮られるので薄暗く、山から降りてくる風はとても涼やかであった。
道行く人に軽く会釈をしながら軽い心持ちで歩いていく。
その時である。
「もし…もし…」
前方から登ってきた一団に声をかけられる。メジスティ産の紫の衣類が緑の山道になんとミスマッチなことか。アルバートは当然のように軽く頭を下げて、なにかご用ですか?と自然にきいた。
「人を探しております。」
「ほう。どんな方を。」
紫の集団から一枚の写真を取り出される。以前どこかで見たやり取りだ。
「んん…申し訳ありませんが、わかりませんな。いやしかし可愛らしい。」
アルバートは写真を押し返して頭を下げた。可愛いかどうかなどは興味のない紫の集団は「失礼。」と一言言ってアルバートの横を過ぎていく。
あんなにいるのに足音も少なく、終始無言であった。
(危ねえ…。)
ルリの証拠になるようなものは残り香のするテントぐらいで他に特にはない。ルリの残した恋愛成就のお守りと書き置きも手元にある。恥ずかしさから隠していたアミュレットをポケットから引きずり出す。
「おっと。」
取り出すときに首紐の部分を引っ掛けて、切ってしまった。落としたお守りを拾おうと屈んだ。
迂闊であった。
坂道で重くなった荷物を背負ったままやることではなかった。急な重心の移動のせいでアルバートはバランスを崩す。地面を叩くようにして落とし物を掴み、なんとか倒れまいと、トントントンと足を前に出した。ちゃんと前を見ていなければだめだった。
「あっ!」
整備された山道を外れてしまえばそこは天然の森の中である、運悪く最後の一歩の先は崖であった。
「おああああ!」
情けない声を出して急な坂をヘッドスライディング。あっという間に森の負荷くま手間落ちていった。