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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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女戦士にすぐなつく…の5(終)

 追う馬車の後部、垂れ幕の間からニョキッと筒のようなものが現れた。

 追いかけていたものはそれと見るとすぐにその辺りを手銃で打ち抜く。しかし反応はなかった。

 馬車の中では緊張したやり取りが続いている。相手の状態を知るためフリティアが持ってきていたスイーパーのノズルを恐る恐る取り出して相手を挑発した。相手はそれにまんまと乗ってきたわけである。

「追手が他にいないのであれば…」

 魔法をそのまま充てれば敵にこちらの正体を悟られる。しかし、魔法使いはいるが悟られにくくするための撃退方法をフリティアが提案した。

「少々危険ですが…。」

「大丈夫。私も足手まといになっている場合じゃありませんから。」

 方法を告げられルリは勇んで持ち場につく。こちらの狙いが外れるといけないので、後方にくぎ付けにできるよう、やはりキーウィには幕の片側から囮として敵に姿をさらしてもらう。危険は伴うが、全身を鎧に身に包めるフルアーマーを着てきているのはキーウィだけなのだ。

「よしと…じゃあ勝負は一発ですよね。」

 キーウィは兜をかぶり槍を携える。運転手には怯えずにどんどん進んでくれと伝えた。ルリの持っていた耳栓を渡して少しでも気を紛らわせてもらうようにしている。いつ自分が襲われないかと気が気ではないと思っているだろうがこの面倒な客を叩き下ろさないところをみると、この運転手も意外と仕事熱心なのかもしれない。

 疾走する馬車の後部がかすかに揺れる。追っていた男からすかさず弾丸が撃ち込まれる。

 しかし、鉛の弾は現れた鋼鉄の鎧にはじかれた。出てきた者は槍を構え、距離を縮めようとすると動きに合わせて威嚇してくる。槍の先は常に鼻頭に向けられ、左右に振って軸をブレさせようともしっかりと狙いを定めてくる。

 追手は顔の半分を布で隠していた。こちらからも相手が誰なのか悟ることができない。だが、あまり馬に乗り慣れていない、布で顔を隠した、たった一人の追手。

「貴様にはそろそろご退場願おう…!」

 ボン、と小さな爆発音とともに、もう片側の垂れ幕の下から熱湯がはじけ散った。

 馬が苦痛で叫びだす。

 鼻を激しく振り、立ち上がった。

 追手は馬に振り落とされる間際、がむしゃらに銃を撃ちまくってしまった。

 追手の男が起き上がったときには馬車はおろか、自分を乗せていた馬まで怯んでどこかに逃げ去ってしまっていた。男は打ち付けられていた無体を引きずり、木に寄り掛かる。ポケットに入れていた小型の機械を取り出して何かをブツブツとつぶやき始めた。


 運転手をせかしどんどん先へと急ぐ三人。

「なんとかまけましたね。」

 ガタガタとあわただしく揺れる馬車の後方からキーウィが言う。もう追ってきている者はいないようだ。

「一人程度だったから…よかったですね。」

 フリティアも少しほっと息を吐いて、銃声が聞こえた時覆いかぶさったルリの上から離れる。

「プレッサーの熱湯で馬の方を攻撃すると。」

「まず、足をつぶせば…追いかけられません…からね。」

 相手が素人のような動きをしていたので助かった。

「これから先、ああいう方どんどん増えていくんでしょうか。」

 不安そうなルリ。キーウィは兜を外しながらその場に座る。

「大丈夫ですって、そのための俺らなんですから。」

「…ですが…。」

 手が何かに触れた。トロッとした液体のよう。熱湯の残りだろうか少し暖かい。

「…?」

 ルリは手についたそれをようやくでてきた月明かりにさらす。

「…あっ!?ふっ二人とも、お怪我は!?」

 べっとりと嫌なにおいを放つ、誰かの血液であった。誰が流したかはすぐに分かった。垂れ幕が風にあおられ光が馬車の中に差し込んでくる。床の血痕の先にフリティアがいた。鎖骨のあたりを抑えている。

「ティア!さっきので…」

「…止血すればすぐ何とかなります。」

 フリティアはそう笑って器用に片手で布を手繰り寄せて、地が噴き出ている個所にあてる。

「…銃弾の残骸が残ってるかもしれないから取り除かないと!」

 とキーウィが近寄るがフリティアはしっしと追い払うように断った。

「自分で何とかやるので…ルリ様にはあまり見せないよう…そっちに気を遣ってくれませうか。」

「あ、はい。」

 それももっともな話である。だが今回はルリの方が聞かなかった。

「わ、私が止血します!」

「…ルリ様?構いませんよ…」

 と息を切らせてフリティアは平気なようにふるまった。

「私のせいでティアが傷ついたのなら…治療の魔法は…私は苦手なのですが…」

 繊細な動きと生まれ持った才能を必要とする治療系の魔法は、ただでさえ制御しにくいルリの魔力とは相性が悪い。だが、体に残った銃弾の方ならなんとかできるかもしれない。血を恐れてフリティアに苦痛を与えてはいけない、とルリは彼女の前に出た。

「少し痛いかもしれませんが、銃弾を吸いだします。」

 ルリは患部にそっと手を添えた。その顔は険しく責任を感じているようであった。

「ルリ様……」

 フリティアはルリの好きなようにさせる。

「では、お願いします…ルリ様に直接…触れていただけるのなら…光栄でございますわ…」

 ずるずると銃弾が引きずられるような感じがする。銃弾以外も引っ張られるので痛みは増しているが、フリティアは終始穏やかな顔で、懸命に汗を流すルリの姿に見入っていた。

 そういえば、邪悪をはじく聖なる加護の痛みを感じることはなかった。

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