女戦士にすぐなつく…の4
日が傾き始める。このエリアに停まっていた馬車も少なくなり、人影もまばらになってきた。にも関わらずアルバートは戻ってこなかった。
「アルが戻ってこないなんて…何かあったんじゃ…」
「間違いなく何かありましたね。」
キーウィが平気な顔をして答えるので、フリティアは斧を振り下ろして脅した。
「今度、ルリ様の不安を駆り立てるようなことを言ったら頭と体が離れると思いなさい。」
ドスの聞いた声で、小さく、だが確実にキーウィに警告をした。たしかにアルバートのことは初見からいけ好かないと思っているが、ルリが信頼を寄せている以上ないがしろにしてはいけない。
(だけど、もうこれ以上は待っていられない。)
事実である。正体不明の敵の接近を許すわけには行かない。まだ人影のあるうちに馬車に乗り込みラルドを目指す。
フリティアはルリの小さな耳に口を寄せる。
「ルリ様、ここにあなたの書きを残し、我々は先に向かいましょう。大丈夫。アルバートはきっと追いつきます。」
ルリは棒を一本机に突き立てて、首にかけていた自分のアミュレットを引っ掛けた。その下にお昼の弁当を残しておく。
しかし普通の書き置きでは探られたら、追手に追いつかれてしまう。アルバートには伝わる暗号でなくてはいけない。ルリは一輪の花を添えた。
「…それは?」
フリティアとキーウィが首をかしげて覗き込む。だがわからないのなら好都合だ。
(きっとアルには伝わる。)
それはその昔、アルバートと交わした秘密の約束であった。
前後を二人で守りそそくさと馬車の方まで歩いていく。たしかに何者かが動いているのがルリにも感じ取れるほどであった。
邪悪な視線を背に受けつつ、三人は荷馬車に乗り込む。
「西側に行きたい。」
早口で先頭のフリティアが運転手告げ発車を急がせる。西側へ、運転手が馬を引き、パカパカと道路へ移動させる。いきなりトップスピードなど出せないので必要なことなのだが、もどかしさを感じ三人はそわそわと日よけの垂幕の隙間から前や後を覗き込んでいる。
「やはり来てますね…。」
間違いなく相手は近づいてきていた。車のような足のつくものではなく、馬で追いかけてきている。フリティアは後列に鎧や荷物など防壁になるものを寄せた。
「ここで撃退しなくては。」
「銃とか弓があればなあ…」
キーウィがつぶやいたとき、外から銃声が2発聞こえた。
「ひぃっ!?」
運転手が突然の音に驚くが、乗せている客はひるまず走らせてと叫ぶ。
敵の威嚇であった。こちらからは攻撃ができるぞとの警告である。
「私が魔法で!」とルリが構ええたが、
「いけません。ルリ様。」
フリティアがはやる彼女を抑えた。
「ルリ様の強大な魔法なら間違いなく追い払えるでしょう。しかしそれは同時に、ここにあなたがいるという証拠になります。」
フリティアは冷静であった。
バレてしまえば行き先が特定されてしまう。相手がどれくらいの軍勢か、今追ってきているのは誰なのか何もわからぬまま事を構えるわけには行かない。
「俺が囮になりましょうか?」
勇敢なのか無謀なのか、キーウィはこういうとき率先して自分の身を差し出そうとする。
「いえ、もう少しいい方法があるはずーー」
考えているうちに一発、弾丸が馬車の中に打ち込まれた。全体がガタガタと揺れる。もはや猶予はない。蹄の音が激しく鳴り、後を追いかける正体不明の敵がどんどん近づいてくる。
もう一発。
キーウィの鎧をかすめた。
キーウィとフリティアは二人で壁を作りルリを守る。
わかった限り敵は一人。ならば。