女戦士にすぐなつく…の3
昼食を終え、ゴミを片付け、アルバートの分の食事をキーウィに持たせる。フリティアはルリを連れてロープゴンドラ乗り場へと向かった。
だがどうしたことがフリティアが途中で立ち止まる。
「ティア?」
前を歩いていたフリティアにぶつからないようルリも体をビタッと止める。少し無理したのでふくらはぎの筋が張ってしまった。
「ルリ様、何者かがこちらに合わせて動いています。」
と声を落としルリにささやく。ルリは驚いて周りの観光客を見渡すが、ルリにはその怪しい人物が見つけられない。
「……アルが戻ってきている…とか?」
フリティアは首を振った。
「おそらく違います。我々を、いえルリ様を狙う者たちかもしれません。」
『救世の巫女』の存在は一般人にシークレットだが、当然オパリシア公国の協会の者たちや、旅の仲間として選ばれた者たち、その関係者は知っている。そしてどこからか情報を嗅ぎつけ、当代の巫女の身を狙う者たちもいる。それらはまとめて邪教の徒と呼ばれ、巫女の持つ強大なマナを利用しようと企んでいる。
ルリは身構えた。
「キーウィの元へ戻り、アルバートの到着を待ちます。」
フリティアはルリの体を覆うように背後に回った。
「ただ、アルバートが夕刻までに戻って来ないならば、彼のことは諦めて馬車を使います。よろしいでしょうか。」
フリティアはまっすぐ前方を向いて警戒しながらキーウィの元を目指した。
アルバートを諦める、と言われてルリの心が少し揺れ動く。しかしここでわがままを言うほどルリは愚かではなかった。
(きっと戻ってきてくれる。)
と彼の帰還を信じた。
「あれぇ?もう戻ってきたんですか。」
キーウィが暇そうに机に頬杖をついていたところに二人が険しい表情で帰ってくる。
「キーウィ、実は…」
フリティアはキーウィに警戒を促した。キーウィは戦いたがりなので、すぐに戦闘態勢に切り替える。
「多分ここなら襲ってきにくいですよね。」
観光地で暴れまわりはしないだろう。という希望である。だが夜にもなれば人は少なくなり、視界も悪くなる。悪条件の中どこにいるのかわからない敵と戦うことになり逃げおおせるにしても、隠れるところは近くの森だけで遠くへ行くにはむずかしい。
バンは乗車できるキャパシティが多く引き離すことができない。貸し切りにでき、数の少ない馬車に乗り込むのがこの場合の正解だろう。
「私が、アルにあんなこと言わなければ…。」
自分のしでかしたことによってどんどん状況が悪くなりルリは落ち込んでしまう。そんなルリにフリティアは笑顔で返した。
「悪いことがたまたま重なっただけです。一つ一つにはなんの関係もありませんよ。今はまだ時間があります。アルバートの帰りを待ちましょう。」
そう言ってフリティアは持ってきていた小さめの兜をルリにかぶらせた。
これはプラムジョニーの「シックなオトナ女子向けのハットメット」である。ハットメットとは帽子のように気軽にかぶれる兜、をコンセプトにした装備品だ。価格はそれなりで質もなかなかよく、何よりもプラムジョニーらしい愛らしいデザインが人気の一品である。
「これはルリ様に差し上げようと持ってきたものです。」
「…ティア、ありがとう。」
兜を深くかぶって恥ずかしそうにルリはお礼を言った。
「フリティアさんって、お金持ちなんですか?」
キーウィがあたりを警戒しながらも、そんなことを言ってくる。
「機械とか装飾品とかポンポン出してるじゃないすか。」
「キーウィ、言っておくけど殆どはルリ様のためのもので、あなたにあげるものは何もないですよ。」
「むしろ私のためにそんな…」
フリティアはもう一度笑う。
「お気になさらず。私はルリ様に尽くしたいのですから。」