嘘つき騎士を置いていく…の2
偽名ぐらい当たり前の警戒だとアルバートは思うのだが、小さや嘘をいくつかついたせいでここに来てリアから疑いの目を向けられてしまう。こうなってはもう正直に話すしかなかった。
「ふうん、じゃあずっと嘘をついていたわけねえ。私は直感は正しかったんだ。」
リアは口を尖らせて呆れたようにアルバートをそしる。
「アルはたまに相手のことを信頼しなさ過ぎます。きちんと謝りましょう。」
確かに嘘をついていたが、それもこれもこの旅を成功させるためのものだ。フリティアは嘲りながらルリに同調して「謝りなさーい」と言ってくる。
「えー…みなさんを信じていなくてすみませんでした。お詫び申し上げます。」
ペコペコと平謝りをする。
「まあ、少し悲しいですが旅で警戒するのは僕も当然だと思いますし。」
とカイやバーナードは許そうとしてくれた。だがそれでは収まらないものがいる。
「待って。」
リアである。
「このアルバートの言っていることはつまり、『今までも虚実交えて話してましたよ〜鵜呑みにするアホが悪い〜』ってことでしょ。」
そこまでは言ってない。
リアは下に見られるのが嫌であった。だから、あそこまでしてきたアルバートに詰め寄って問いかける。
「あなた達の旅の目的、本当は何なの?」
なにか確信めいた表情をしている。こうなるからバレたくはなかった。フリティアなら察してアル呼びをしてくれるだろうと高をくくった結果である。
アルバートなりの信頼だったのだが、残念ながら二人はまだそれほど仲良くない。
「あー…それはだなぁ…」
アルバートは目をそらして、手で押し返すようにリアとの間に壁を作る。
「私達はこの世界の安定のために各地を回っているのです。」
「え?」
(あーあ…)
ルリが言葉に詰まってなかなか言い出さないアルバートに代わり、本当の旅の目的を告げた。
「世界を襲う天変地異、これらは世界を巡るマナが不安定になっているためなんです。」
ルリがゆっくり枯れた神殿の溜池に歩み寄った。
「私たちは神殿を探し出し四柱の神にマナを捧げ、神の力を増幅させて混乱を鎮めていただこうと。」
「待って、ということはつまりあなたは…」
カイたち四人はわなわなと身悶えする。
「はい、私は『救世の巫女』ヒタキ ルリです。」
先程から感じていたただならぬ雰囲気を放っていたのはそのためだったのか。新米冒険者たちは突如として現れた伝承の人物にただただ驚嘆する他なかっ。
「え、それなのにこんなインチキ臭い人を!?」
リアははっと気づいたように、渋い顔をしているアルバートを指差して訴える。
「いい加減なこともいっぱい言いますが、アルも大切な仲間なのです。」
「巫女様騙されてない!?」
リアはちょくちょく核心に迫る。
「そんなことは。こうやって皆さんの力を借りてまではぐれた私達のもとへ駆けつけてくれたのが何よりの証拠です。」
ルリは胸を張ってアルバートの潔白を弁明をする。その信じきった曇りのない目を見ると流石にリアも何も言えない。他の三人は感心するだけでそこに一点の疑いも持たなかった。
(う、うちも似たようなものか…)
チラッとアルバートを見ると目があった。彼は手をひらひらさせて笑いかけてくる。
(こんな軽そうな男、私は信用しないんだから。)
リアはそっぽを向いた。
ーー掃除は終わりましたか?
神殿内に落ち着いた音楽のような声が響く。
「はっはい!」
ルリやフリティアはその場にかしこまった。ただまだ姿が恐ろしいのかルリは目を強くつぶっている。
ーーふむふむ。少しぐらいいびってやろうと思ってましたが、まあ、しっかり反省したみたいなのでいいでしょうか。
ふよふよと翅を羽ばたかせながら無数のビニアスが姿を表し、それぞれが5つの目で輝きを取り戻した神殿を眺めて回る。
ーーでは、あなたがたの目的を…って聞いていますか?巫女よ。
「はっ!?はい!!」
直接声をかけられて体をこわばらせるルリ。目を強く締めているせいで、海神と少しずれた位置に体を向けている。
ーーあなたは私にマナを奉納しに来たんでしょう。しっかりしてもらわないと困りますよ。
一言一言を別のビニアスが交代しながら話すので、今誰(どれ?)が話をしているのか全く距離がつかめない。
ーーいやだから、目を開けなさいって。
「巫女様。」
「ルリ様。」
「ルリ。」
いつの間にかおともの三人がルリの周りを囲んでいた。そばに仲間がいてくれると思うと、ルリは勇気が湧いてきた。
「虫がなんだってんだよ。」
ーーだから私は虫じゃないです。
「虫じゃない、虫じゃない…あれは神様だから…」
ルリは自分自身に言葉をかけてゆっくりと目を開いた。薄目で少ししか見えていないが、それでも開けたことには違いない。
ーー……まあ、いいでしょう。では、儀式を。
溜池があったところに翅をはためかせてルリを誘う。
彼女が震える足を前に一歩出すとき、アルバートは背中をポンポンと叩いてやった。ルリが前に出て、懐から鈴を取り出す。
チリンとあたりに響き、その途端ざわめいていた世界がこの鈴の音だけになった。
ルリがまぶたをとじる。嫌悪感からではなく心を集中するためだ。にわかに彼女の体を包むよう周囲が明るくなった。神経が研ぎ澄まされやがてぼんやりとした光がくっきりとしていく。
ルリは宙をこねるように手を動かした。光が手の先にあつまり、そして、一つのたまへと変わった。
ランタンのときとは違う。コロッとした宝玉のような触れる塊である。それを両手ですくい上げて、神の御膳に差し出した、
頭から伸びた長い口がチョンチョンと玉にふれる。その瞬間一斉にビニアスたちが光の玉に群がった。ガツガツと餌にありつく魚のようである。
(うわ、えっぐ…)
目を閉じてるルリ以外のほとんどの者には非常に壮絶な光景であった。もぞもぞビニアスが動くたびに光のかけらがあたりに散らばる。
ーーぷぅ…ごちそうさま。
やはり食事だったらしい。