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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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八面六臂のしたり顔…の19

 あたりの泥を捲き上げて、美しかった白い聖域には土砂降りの雨が降り注ぎドロドロに汚されてしまった。

「オノレ…!!」

「ルリ様!ルリ様!落ち着いてください!こんな虫けらなど私めが倒してご覧に…!」

 荒れ狂う突風と轟音がフリティアの必死の声をかき消す。

ーーや、やめ…っちょ…!

 女神ーー否、女神たちは人の姿をしていなかった。ギョロっと下黒く丸い5つの瞳、長く伸びた触手のようなものの先に口がついている。胴がいくつにも分かれて、ヒレのようなものがひらひらとそれぞれの胴の両側についている。10センチにも満たない小さな女神たちはそのヒレを懸命に動かし、空中を泳ぐように風に抗っていた。

ーー落ち着きなさい!なんなんですっ!

「ホンモノハドコダ!」

ーー本物も何も、私達が海神ビニアスなのよ!?

「マダイウカ!」

 髪を逆立ててより一層ルリの力が増していく。彼女は虫にトラウマしかない。ビニアスのぬらぬらとした御姿は刺激が強すぎた。無数の飛び交う正体不明の生き物。社にあった巨大な女神像は想像の産物でしかなかった。

 錯乱するルリの視界が急に暗くなる。

「!?」

 どこからかずっと待ち望んでいた声がした。

「ルリ!」

 誰かが何かを呼びかけている。そうだ、いつも私が怖くなったとき側にいてくれた方がいたはずだ。その人と途中ではぐれて心配だったのだ。強く強く呼び覚まされるような声が聞こえる。昔そんなことがあった気がする。でもいつだったのか思い出せない。

「ルリ、待たせたな。」

「……アル?」

 彼は彼女の目を塞いだまま、いつものように優しく語りかけた。

 本当にギリギリだったと感じる。マナのあふれるこの異界では、巫女が感情を揺さぶられると大きな影響が出てしまう。

「はぁ…はぁ…よかった、アルさん間に合ったみたいですね。」

 キーウィがあとから追いついて、疲労感で中腰になる。

「……ここが。」

 ルーキーのカイたちはこの聖域に目を奪われていた。計り知れない技術で作られた見たこともない建物。古代のような未来のようなどの時代にも属していない、そんな畏敬の念を抱いてしまった。

「よく、来れましたね。」

「おう。」

 アルバートの手のひらに激痛が襲ってくるがルリの目隠しを外すわけには行かない。本当はのたうち回りたくてしょうがないが、それもこれもルリのためである。

 ビニアスたちはそれぞれがしゃべるのであちらこちらから声が聞こえる。

ーーあなたたちは、その娘の…

「護衛だよ、護衛。」

ーーそうでしたか。しかし私の姿を見るなり、虫けらだのいきなり失礼じゃありませんか?

「も、申し訳なく…」

 フリティアはその場で膝をついて頭を垂れる。

ーーふん、それではすまなくてよ。あなた方は目的を果たすためにここに来たんでしょうが、気分が悪いです。

(意外と人間臭いんだなあ…)

 キーウィはそんなことを考えていた。

「あ、あの…」

 落ち着きを取り戻したルリがようやく口を開く。目を塞がれたまま。

「取り乱してしまい申し訳ありませんでした…。」

ーー……未熟なあなたを導くのが私の役目ではありますが…

 ギョロギョロと頭の上についた5つの目でぐちゃぐちゃになった神殿の中を見渡す。

ーーこの落とし前はどうつけてくれるのです。

「えっと…」

ーーまさか義務だけ果たしてすぐ去っていくわけではありませんよね。

 アルバートは、本当を言うとやれることだけやってさっさと帰りたかった。だが、それではルリも納得しないだろう。

「ま、まず…ここのお掃除をさせてください!奉納するのはその後で構いません…それで許していただけないでしょうか。」

ーー……。

 ビニアスたちはニョロニョロとし口を振り回して相談し合った。

ーーいいでしょう。ただし元より綺麗に!ゴミ一つ残さないよう!サボろうものなら天罰を下しますからね。ちゃんと見ていますよ…。

 そういって女神たちは消えていった。

「アルさん…」

 カイたちがこわごわ話しかけてくる。

「ああ、悪い。この二人が俺たちが探していた、ルリとティアだ。」

 ティア、と呼ばれてフリティアはにわかに殺気立つ。

「貴様にそう呼んでいいと許可した覚えないぞ…」

 低い超えて脅すように耳元までやってきてささやかれる。

「本明バレは嫌かと思って。」

 アルバートなりの配慮である。それでも嫌なものは嫌らしい。カイたちに気づかれないよう背中を殴ってその場を離れていった。

「僕らもそのお手伝いをすればいいんですか?」

(おいおい、それじゃ利用されっぱなしだぞ。)

 巫女だとバレる可能性もある。アルバートは報酬を払いさっさと引き取ってもらうよう伝えた。だがカイたちは首を振る。

「何言ってるんですか、ここまで一緒に来たんですから、最後までお手伝いさせてくださいよ!」

 使い勝手は悪くなさそうだししたいようにさせればいいじゃないですか。とフリティアが心にもないことを言う。

(この先苦労しそうだなあこいつら…。)

「それじゃあ、その、悪いけどお願いできるか?」

「はい!」

 気前よく返事をして、彼らも神殿の掃除に加わる。

「あの、アル…」

 もぞもぞとルリが動く。

「なんだ?心配だったか?」

「その、そろそろ手をどけていただけないでしょうか。恥ずかしい…。」

 そういえばそうだった。気づかなかった。

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