八面六臂のしたり顔…の18
順風耳というのがある。小さな囁きも聞き逃さない、空気のかすかな震えまでも感知する魔法の一つである。リアが長けていたのはこの能力であった。
「そんなところ…。」
難しい顔をしてアルバートに自分の秘密を打ち明けた。順風耳は扱いが難しく、不特定の誰かの声を聞きつけるときは周りが静かであることが大前提である。逆に特定の誰かの会話を盗み聞きするときは、その方向に耳を向けてあたりの空気を操っていれば良い。
「たったそれだけのことを聞くのになんであんなこと…」
リアは先程の思い出して頬を赤らめた。男に組み敷かれたのが悔しかったからでは決してない。
「ま、悪かったよ。でもまあそういう危険もあるんだってことがわかっただろうし…」
とアルバートが笑っている。その何でもなさそうな様子に、無性に腹がたった。
「…………お礼にお返ししてあげる」
「へえ、何を…」
ギャッと小さい叫びを上げてその場に張り倒された。
手のひらに電撃をまとったまま思い切りビンタされた。
「あれ、アルさんどうしたんですか?」
「いや何も…」
二人は先を行っていたカイたちに合流した。
アルバートの左頬は赤く腫れ上がっていた。調子に乗った罰である。
「カイ、先行こ。」
ぷりぷりと怒りながらリアがキーウィとカイを通り越して先行していく。
「アルさん、あの子に手を出したんですか…?」
キーウィがこっそり近寄ってきてニヤニヤと笑った。
「なわけ無いわ。」
そんなわけがないわけはないのだが、最初から手を出す気など毛頭なかった。ただ動揺させたり心を揺さぶって本心を引き出させるための強引な手段の一つのつもりだった。
「くぅ…。」
「ちょっと静かにしてよ!協力してあげるって言ってんだから!」
リアが耳に手を当てて周囲の音を拾っている。
その時である。
「あっ!?」
リアは驚いて森の向こうを指さした。
「あっち!あっちから今女の子の叫び声が聞こえた!!」
「本当か!」
ルリの声だと確信してアルバートは勇み足でリアの指した方向へ飛び出ていった。慌ててカイたちも後ろについていく。
(叫びっていったらまずい!すぐに駆けつけねえと…!)
やがてアルバートたちの前に大雨の降る白い壁の神殿が現れた。