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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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世界が闇に包まれる…の4

 一行は舗装された道を歩く。左右に大きく幅の取られた開かれた道の方が移動するのには便利なのは当然である。テントなど一番大きなバックパックを持つのは聖騎士のアルバートの役割だ。騎士といっても証書一枚持っていれば騎士だと言い張れるので楽なものである。ちなみに、もともと捨てられていた30人前の寸胴鍋は持ち運びに不便なのに、不法投棄はいけないという巫女様のご達しでキーウィが背負うことになった。

 道路を歩いているとまれにやってくる金持ちの象徴、車に追い越されていく。燃料を燃やして4つの輪を動かす鉄の装甲の最新鋭の乗り物である。都市部まで行けば、レールがあることが前提だが、もっとすごい電気で走る大型の運搬車もあると聞く。それなのに森の中の整備された道を3人は今どき徒歩でわたっている。

「車ならもう昨日のうちに隣町ついてるんだぜ。」

 先頭を歩くアルバートが後ろの二人に文句を言う。

「またそれですか…アル。これは修行の旅でもあります。楽な手はきっと許されません。」

「徒歩のほうが冒険感出ませんか?」

 二人はこの調子である。出発前も何度かこのやり取りは行われた。効率を考えて考えられうる最善手を提案したつもりだが、どうしてもルリは折れてくれなかった。

「四神様はいつも見ておられます。アル、キーウィ、お願いです。私を鞭打ってください。」

(俺は女の子を痛めつける趣味はないんだよな…)

 そうではない。

「でもかえってアルがそうやって言ってくれるからこそ、甘い誘惑に耐えるということができるわけですよね。アル、ありがとう。」

 そんなつもりは毛頭ない。我慢に付き合わされる身にもなってもらいたい。慈愛の心をアルバートは欲していた。

 だが、確かに気合を入れなおすことができたのか、一層鼻息を荒くして一歩一歩踏みしめていった。

「巫女様、チョコいります?」

「あ、いただきます。」

 キーウィが懐からおやつを取り出してルリに分け与える。

「やっぱり…疲労回復には甘いものですねえ。アルバートさんは?」

「俺はいいよ、甘いの嫌いだし。」

「んー、おいしいです、ありがとうキーウィ。」

(そういうのはいいのかよ…。)

 呑気なものである。

 この辺りは人通りも少なく、空気も澄んでいてふと森の中に目を向けると野生の生き物と目が会ったりする。昨日食べた小鳥が高らかに空を舞っている。未曽有の天変地異とは言うものの、実際被害にあっているのは人間たちの生活圏だけなのだ。そのほかの生き物はたいして悪い影響を受けていない。

 悪い影響が出ているのはやはり――。

「おい!」

 突然焼けたようなガラガラ声で怒鳴りつけられる。先ほどまで聞こえていた動物たちの音がやんだ。

「はー、のんびりしすぎましたね。」

 キーウィはどこまでも他人事である。

「野盗か…」

 行く手をボロ布をかぶった人相の悪い男たちに阻まれた。目の下にできているくまはおそらく寝不足だけではないだろう。アルバートから見ればこいつらは何でこんな回収効率の悪い生活をしているんだろう、といいたくなる。事情はあるのだろうがそれは自分には関係ないことだ。

「へっへ、これみりゃ俺たちの言いたいことはわかるな、兄ちゃんよ。」

 刃渡りの大きい三日月刀を一団の真ん中にいる男が突き付けてくる。他の者たちは斧などの思い思いの武器を携えている。

「わからないですね。」

 キーウィがわざわざ前に出てきた。お前は後ろでルリの守りやってろよ。

「ああん?」ガラの悪い声であからさまに顔をゆがめる野盗衆。

「いいか、装備一式と食い物、それと…」

 キーウィとアルバートの隙間から顔をのぞかせるあどけない少女を見つけた。

「その女が通行料だ。おとなしくだしゃ悪いようにはしないぜ。」

 お決まりのセリフである。

 自分に向けられた悪辣な感情にルリはすくんでしまった。だが、こっちの男たちは落ち着いたものだ。ルリの肩にアルバートは手を置いた。

(あっいった!!!)

 マナの防壁を忘れてたわけではないが、こんな時に阻まれると悲しいものがある。だが痛みに耐え抜いてゆっくり手を引いたので、ルリはそのことに気づいていない。むしろアルバートの余裕そうな顔を見て安心したぐらいである。

「通れるようになるだけなんて要求と釣り合わないでしょう。何言ってんですか。」

「ああっ!?」

 あくまでマイペースなキーウィがひるまないので恫喝する野盗たち。人数は10人程度。

「ア、アル…どうしましょう…。」

 今までこの手の輩には出会ってこなかったのか、安心はしたもののまだおびえている様子のルリ。

「まあ、順当にルリを差し出す以外の要求をのめばいいだろう。」

 アルバートはここで事を構えたくなかった。次の街までもうしばらく歩くので、ここで戦闘をすると必要以上に体力を損なう。最悪、失敗をすればルリの魔法が暴走する。要求をのんだところで見逃してくれる可能性はあった。相手が痩せこけているからである。

「一番欲しいのは食料、次に装備ってところだ。」

 ルリはたまたま見かけたから言っただけだろう。それはそうだ、黒髪で色の白い美少女などこの辺りではめったにお目にかかれない。目を奪われるのも無理はなかった。

 だが側でやり取りをきいていたキーウィは余計なことを言う。

「アルバートさん、何言ってるんですか。」

「おい」それ以上はやめろという前にキーウィが続けてしまう。

「こんな奴らに与えるものなんて何もありませんよ。身の程知らずはどうなるか思い知ればいいんだ。」

「てめぇ!」

 物騒すぎる。キーウィの安い挑発に野盗たちは乗せられてしまったようだ。それぞれが武器を強く握りしめて構える。これはすなわち多少要求をのんだところで許してもらえる雰囲気ではなくなったことを意味する。

「勘弁してくれ…」

 キーウィはアルバートにかまわず剣を抜く。

「アルバートさんも、戦闘準備を!」

 仕方なくアルバートはベルトに手を当てる。その時、手に何かいつもと違うものが当たった。

(あ…。)

 両者にらみ合う。じりじりとにじり寄ってくる野盗たちにルリも恐怖を隠せないようだった。

「ルリ、ちょっと前に出てくれ。」

「アル…なんで…」

 怯えるルリを強引に前に突き出す。急に目の前に出てきた少女に男たちが一瞬たじろいだ。

「おらぁ!!」

 バシャッとはじけて相手の顔面に何かがぶちまけられる。側の何人かが反応してこちらに駆け出した。

「俺は右をやります!アルバートさん、左を!」

「あほか!」

 付き合ってられん!アルバートは腰からどんどんと茶色の球を投げつけた。

「くっさ!」

「腐ったスープは染みるだろ!!」

 一番近くの男を肩で跳ね飛ばし、道が開いた。

「よしルリ行くぞ、お前も何個かスープ投げとけ。」

 そう言ってアルバートはルリの腰下と肩を抱きしめて持ち上げる。

(んだだだだだだ…!!!!)

 全身に激痛が走るが今はそれどこではない。

 傍から見れば軽やかなお姫様抱っこで騎士は巫女とともに野盗の間を抜けていった。

「アル待って!キーウィを置いてくのですか!」

 焦ってアルバートの腕の中で叫ぶルリ。

「ルリ、それは違う。」だがアルバートは極めて優しく力強く語りかけた。

「あの程度、キーウィなら簡単に抜けられる。仲間を信じようぜ。」

「アル…。」

 ルリがアルバートの首に腕を回して掴まる。

(ぎゃああああああいってええええええ!!!!)

 口ではああいったが、正直あいつちょいちょうむかつくので野盗にやられてくれねえかな?などと考えた罰なのか。過去最高の逃げられぬ激痛を胸にアルバートはひた走っていった。

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