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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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八面六臂のしたり顔…の15

 腕をだらりとぶら下げて、アルバートは宙吊りになった。キーウィが駆けつけて助けようとするが、他にもツタが這い出てくるのでなかなか近寄れない。

 カイたちも囲まれないようそれぞれが応戦するが、神官のシズと弓使いのバーナードが細いツタに対して有効な攻撃手段を持っていない。リアの炎魔法も湿気っぽい沼地では燃焼効率が悪く、そこまで攻撃が効かない。

「うええ…これなんの植物ですか?」

 キーウィはアルバートに問いかける。

 まだまだ元気なアルバートもちゃんと答えることができた。

「シラネ。」

 ツタは絞め殺そうとしてこないで、ある程度の強さで動きを封じるぐらいだ。首に巻き付けば窒息させることも狙えるのに、そうしないあたり別の目的があるのかもしれない。ただもがくと余計にツタが深く食い込んで更に動けなくなってくるので静かにじっと次の手を考えるしかなかった。

「バーナード!アルさんを吊るしているツタを狙い撃って!」

「わかった。」

 バーナードが矢をつがえて狙いを定める。

「はっ!」

 矢がアルバートの靴の先をかすめた。バーナードは歯噛みしながら二の矢を構える。

(おいおいおい!マジかよ!?)

 アルバートに緊張が走ったとき、矢は空を切った。アルバートは青ざめる。彼らは忘れていたがルーキーなのだ。まだ弓矢の練度も浅い。

「次…!」

 下手くそショットに自分が射抜かれるかもしれない。アルバートは狙いを定められないために、ツタが食い込むのも気にせずわざとじたばたした。

「アルさん!落ち着いてください!次は当てますから!」

「やめてぇ!」

(どこに当てるつもりなんだよ!!)

 外れて調子が悪いにもかかわらず何度も何度も射たところで精度はどんどん下がっていく。足の一本や二本持っていかれるのは、足が資本の元盗賊のアルバートにとって桁外れに恐ろしいものであった。

「待てっ…!!待ってくれっ!」

 アルバートも必死である。ナイフさえあれば自分でなんとかできる。

「その木のウロにナイフを落としたみたいだ!それをとって俺に寄越してくれ!それなら自分でなんとかできる!」

「!…わかった!」

 バーナードが木の方へ向かう。だが自衛手段を持たないバーナードもツタに行く先を阻まれる。

「あたしが開く!」

 叫び声とともに火球が二、三個ほどツルの塊に打ち込まれた。水分が多くて燃え盛りなどはしないが、効果はあるようで一瞬植物がひるんだ。

 バーナードとリアは固まって木のそばまで寄っていく。

「うわっ…!」

 今度は何事かとアルバートが首を二人に向けると、木の近くで立ちすくんでいた。

「どうした!」

「いや、その…」

 と二人の隙間から、内臓のようなうごめく肉塊がウロの中に詰まっていたのがみえた。

「そこにあるはずだからとってくれ!」

 切実な思いである。うごめく肉はそれはもうグロテスクな見た目で嫌な臭いまで放たれている。ここに手を突っ込むのは乙女的にNGである。

(私のこと助けてくれてんだから…これくらい…)

 リアはぐっと力を込めた。恐る恐る指を伸ばし、そのプニっとした表面に触れた。すぐに指先に樹液がついてくる。

「あああ!だめえ!無理ぃ!」

「言ってる場合か!」

「ごめんなさい!ホントだめ!」

 生理的嫌悪感はなかなか克服できない。

「わかった!わかったから!」

 動くアルバートのつま先がツタに引っかかった。

(そうだ!)

 アルバートはリアに向かって叫ぶ。

「リアちゃん、俺の足元めがけて火の玉撃ってくれ!」

「ええっ?!」

「矢じりが足に食い込むよりはマシだ!足は致命傷にならねえ!頼む、あんたの魔法はすごいんだからよ!」

 リアが杖を構える。

「やあ!」

 褒められたからか強火の炎がアルバートの足に当たった。

(アッ!アッ!アッ!!アッヂャ!!アッツァ!)

 だが足の自由が少しできたすぐさまアルバートは靴先の仕込みナイフで自分を吊るしていたツタを切り去った。

 そのまま落下し地面に体を打ち付け、すぐさまゴロゴロとして足についた炎を消し潰す。

「おおおお!!」

 火が消えてすぐにアルバートはその場から離れて、ウロのあいた木に駆け寄った。

「だっ大丈夫!?」

 返事をする暇もないまま、アルバートはみんなが嫌がったブヨブヨの木の穴に腕を突っ込んでナイフを手探りした。

「うええ…」

 ヌチヌチとネバネバした音が鳴るたびにリアは耳を塞ぐ。おっさんの口臭のような、鼻にこびりつく異臭に耐えながらアルバートは愛用のナイフを掴み取った。

「おらぁ!!」

 肉の中でナイフ強く握りしめて、内側から切り開くようにしながら腕を引き抜く。

「オオオオオオオ!!」

 木から苦しむ化物のうめき声が聞こえた。これが致命傷だったのか、襲いかかる無数のツルはパタリと萎れて大人しくなった。アルバートの腕からには嫌な匂いが残った。…なので誰も無事を喜んで近づいてはくれなかった。

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