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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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八面六臂のしたり顔…の13

 窮地を逃れたアルバートとキーウィそれからカイたち。近づいてきた泥の化け物どもをマジックプレッサーでまき散らした。お湯が混ざると泥がサラサラになって形作るのが難しいのか、お湯が冷めるまで大きく時間がかかった。そのすきに6人はその場を脱出する。

 一休みできそうな石造りの小屋があったのでそこで一行は一時休憩をとる。本当はそんなことをしている場合ではないのだが、マジックプレッサーの熱湯を直に浴びたカイやバーナードがやけどを負っていたためである。

 神官シズが自らのマナを使い二人の治癒に勤しんでいる。

「魔法ってのは便利なもんだな。」

 入り口で見張りをしているアルバート。同じく少し離れていたところで無事だったキーウィも門番のように、アルバートと左右対になって立っている。

「なんでも自分のマナが相手の細胞に作用して、急速に傷口を修復して回復させるのだとか。」

「マナってのは…栄養みたいなもんなのか…?」

「まあ細胞の働きを促進させるので似ているといえばそうですよね。」

 ルリが前に言っていたのは、そういった傷口をふさぐ、修復する、元に戻すなど「ヒール」の魔法は魔術師の中でもさらに貴重で慈愛に満ち、才能があるものしかなれないとのこと。その性格上、神を信奉するものや誰かに従事することを好むものが多いとか。

「まあ、俺もシズさんみたいな女の子にご奉仕されたいかもですね。」

 キーウィがだらしない顔をしながらいう。

「他パーティにちょっかい出すと後がやばいぞ…。」

「そんなつもりないっすよ!それより、アルば…さんの方がやばいでしょ。」

「…?何のことだよ。」

 キーウィはにやにやと笑いながら、窓辺に頬杖をついてむすっとしているリアを顎で示した。完全にそっぽを向いているのでこちらが見ていることには気づいていない。

「ああ…。」

 後ろから抱きつくような形で支えたことを根に持っているのだろう。しかもプレッサーを発射したのはリア自身。メンバーを自分の手で傷つけてしまったことを後悔している。だがあの場合安定して撃つにはあれしかなかった。とアルバートは主張したい。

「どさくさに紛れてあんな可愛い女の子の体まさぐっちゃう辺り、うらやましい。」

「勝手に記憶を改変すんなよ!」

 確かにつっけんどんな態度をとっていても、見た目はルリとはまた違った美少女である。というかこのカイのグループは、面食いなのか美男美女でそろっている。眠たげな地味な顔をしているアルバートと一見好青年そうな締まりのない顔のキーウィが浮いて見える。

「やっぱ顔がいい男のところに、可愛い女の子が集まるもんなんすかねえ。」

 4人は同郷出身で幼馴染なのである。ただそれだけのことだ。

「旅に出るとなるとリーダーに似たような人間が集まりやすいんだよ。」

「では、うちのグループは?」

 裁定が協会によるものなので全く関係がない。そこが怖いところだ。第三者が決めたパーティというのは考え方のちぐはぐさで衝突は起こりやすく、アルバートのように面識がないからと言ってこっそり紛れ込むような者も出てくる。最もアルバートのこの秘密は墓場まで持っていくつもりではある。

(出会って間もない俺にスキを見せたぐうたらがメンバーになるよりはましだったろ。)

 かつての酒場での出来事を思い出す。彼の男ががルリの護衛につくとなると…さぞルリの負担が大きかったに違いない。そうなればこの世はすぐに暗黒に堕ちる。初めは信じていなかったものの、何度も周囲の空気がざわめくさまを見させられると、嘘をついているわけではないことがアルバートにもわかる。

 ただし世界の平和は二の次だ。

(ルリがこの世界にいるのはわかったが…少しぐらい心を曇らせてくれれば探しやすいってもんだよなあ…。)

 アルバートは薄灰色の空を見上げた。最初に来た時からこの調子なので、ルリが原因とは思えない。それにルリが暴れると相当ひどいことになるのは経験済みである。そうなってはいないということは、フリティアがしっかり守っている証拠に他ならない。

「二人は大丈夫か…」

 アルバートは柄にもなく独り言をつぶやいてしまった。

「…人捜してるのは本当みたいね…!」

 窓際のリアが話しかけてくる。

「あっ?」

 そうやって少し大きな声を出さなければ聞こえない距離で、今のつぶやきをどうやって聞き取ったのか。

「あたしたちを騙して何か企んでるのかと思ってた。」

「ひどい言い草だな…。」

「でも確かにアルさん、ちょっと軽薄そうだし。」

 キーウィがケラケラ笑う。

「…お前後で覚えておけよ。」

 リアが「仕方ない」という無理やり自分を納得させたような表情で、上から物を言ってくる。

「その軽薄そうっていうのは撤回する気はないけど、一応あたしたちのリーダーを救出するのに一役買ってくれたから、探すの手伝うぐらいはしてあげてもいいけど。」

「…そりゃどうも。」

 フンと鼻を鳴らしてまた黙ってしまった。

 先ほどのようにまた窓の外を眺め始める。アルバートはあることに気づく。リアは目も合わせないように完全にそっぽを向いていると思っていたが、何か体がある方向に固定されている。

「………。」

 アルバートは怪しく思った。

「キーウィよ。」少し、声を抑えてアルバートがしゃべり始める。

「俺は間違ってたみたいだ。」

「…何がです?」

「あのリアって子、リーダーのことが好きっぽいぜ。」

 前後が全くつながらない会話をしているのだが、キーウィはうんうんと納得した。

「わかります。でもあのシズって子も実は…?」

「ああ、あるだろうな。今もほら、治療とはいえ体にベタベタ触れてるもんだから嫉妬してあんな風に…」

「…はぁ!?違うし!勝手なこと言わないでくれる?!」

 リアがその場で立ち上がった。

 今度はアルバートが笑う。そしてキーウィにも聞こえないぐらいの声でつぶやいた。

「リアちゃん、こっちを盗み聞きかい?どうやってんのか知らんが。」

 リアは黙って何ともないようにその場に座りなおす。今度は本当に背中をこっちに向けた。先ほど気づいた違和感とは耳だけがこちらに向いていたことである。その一連の動きだけでアルバートの予想は当たったと確信した。

(あの子は遠くの声を聞き取る力…というかそういう魔法みたいなものを使えるんだろうな。)

 もしかしたら、ルリを捜し出す強力な手段になるかもしれない。そのためにはもっと信頼を得なくてはいけない。

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