八面六臂のしたり顔…の12
森の入り口で、木に身を隠しながらひっそりと助けを待つルリたち。大きな魔法を使って付近にいる人々に気づいてもらいたいが、そこにアルバートとキーウィはいないかも知らない。その上、魔物たちも呼び寄せてしまうだろう。
「どうにかして、アルたちと合流しないと…」
それにはまずフリティアが目覚める必要がある。なにか幸せな夢を見ているらしく、むにゃむにゃと寝言をいって、たまに薄ら笑みを浮かべては柔らかい苔にキスをしている。
「…たぶんここは異界に間違いないですよね…。ならば、奥深くには海神様の神殿があるはず。先にそこに向かえば…」
二人でそこを目指す。アルバートたちもきっと神殿を目指す…のだろうか。
「でもやっぱりここで動かないで待ち続けたほうがいいですよね。」
「いえ、ルリ様。仰るとおり、我々で神殿を目指したほうがいいでしょう。」
フリティアがいつの間にか起き上がり、キリッと真剣な目つきでルリの案を採用する。この際、苔の周りが涎でベチョベチョになっていたり、口元に苔が一部くっついていたりするのは気にしないことにする。
「でも危険じゃ…。」
「少人数なら森を抜けるときに敵にも見つかりにくいです。どんな魔物共がいるかは存じませんが、ルリ様の異界の知識と私達の力があればきっと切り抜けられます。」
フリティアは胸を張って、そうルリを力づけた。
「それに私達は荷物が少ないので身軽に動けます。逆に長居するのには向いていません。この世界で食べられるものを手に入れられるかも怪しい…。」
たしかにそうだ。二人が持っている携帯食糧が尽きてしまうと、探索どころではなくなる。それに自分たちがどうやってどこから入ってきたのかも定かではないのだ。戻ることもできないとなると、やるべきことは一つ。この世界の奥にいるという海神へマナを捧げ、救世への一歩を進めることである。
ルリは立ち上がって決心する。
「わかりました!」
笑顔に力が溢れてきた。フリティアもいる。きっとまたアルバートたちとも会える。そう自分に言い聞かせてルリは奮い立った。
「とは言ったものの…どこを探せばいいんでしょうか…?」
地図も効かない観光案内なんてありはしないそんな世界をがむしゃらに歩いても迷子になるだけである。
「これを使いましょう。」
4つのプロペラがついた謎の目玉をフリティアが取り出す。
「わ、わあ…これ…ドロンの化物…」
「ん…なんですかそれは?」
意外な目玉のグロテスクさにおののくルリが、不思議なことを言ったのでフリティアが首を傾げる。
「そういう魔物がいるんですか?」
「はい…空を飛び回る目玉の化物で夜、道を歩く人に空から襲いかかって吸血をするらしいです…。」
ぶるぶると体を震わせながらルリが語る心なしかあたりの霧が濃くなってきた。
「目玉のどこで吸血するんです?」
「えっ?そ、それは……。」
フリティアは笑った。
「ではどっかの誰かのホラ話ですよ。全くルリ様のお心を煩わせるとは不届き千万ですね。ルリ様、これは大変便利な偵察機なのです。こうやって…」
操作用のレバーをガチャガチャと動かすと目玉の偵察機がプロペラを回して垂直に浮上した。
「あっ…これは…機械?」
「そうです。人工物ですよ。」
音もなく風を巻き起こしながら偵察機が空へと舞い上がる。
「この画面にいま偵察機から見える風景が映し出されます。」
そう言って少し厚みのある板を取り出した。
「わあ…千里眼みたいです!」
その板には異界の俯瞰図が現れた。ルリは思わず、板から目を離さないまま腕を振ってみる。
「うふふ、そこまで細かくは映せませんよ。」
フリティアがレバーを操作するとぐんぐん世界の姿が顕になっていく。
「ん、ここでなにかひと騒動起こっておるみたいですね。」
フリティアが指差す東の隅の方で麦より小さい何かがもぞもぞと動いている。
「ここに行ったほうが…?」
「いえ、かなり離れていて危険です。それにここに行くのには沼を突っ切っていかなくてはいけませんし…。」
あまり見晴らしのいいところには出たくない。
ルリは思わずこの地の海神様に祈った。
(どうかこの方たちをお守りください!)
「ルリ様、ギョウコーです。ここがおそらく、神殿。この森を渡りながらぐるりと大きな沼を迂回すれば到達できるでしょう。」
「本当ですか!」
フリティアはルリを見つめて誇らしげに言った。
「このフリティア、誓って嘘は申しませんわ。」
二人は先を目指す。