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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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八面六臂のしたり顔…の11

 同郷出身の仲良し四人組、カイ、シズ、リア、バーナード。冒険者のルーキーもルーキーで特にカイはあまり人を疑わない。そこがいいところでもあるが、いいようにつかわれてしまわないかリアは不安であった。

「そっちは前衛不足っぽいからしばらくはこっちが引き受けるよ。」

 さっきあったばかりの大人の男二人組にリアは疑念を抱かずにはいられなかった。

「カイ、あんたお人好しなんだから、うっかりすると騙されるわよ。」

 リアがカイの耳を引っ張って、彼に忠告をささやく。

「大丈夫だよ。」

「あの二人の言ってることが真実だって証拠はどこにもないんだからね。」

「時計の魔具があったでしょ。」

 あんなものはどこかの魔道士から奪い取ってしまえばどうとでもなるのだ。リアはバッグに鍵をかけた。

「それに、アルさんたちが僕らを騙してなにかいいことってあるの?」

「えっ…それは……お宝横取りされたり、とか…」

 それなら帰りは協力しなければいいじゃないかとカイが笑い飛ばす。本当のところはそうではない。乙女的な危機感である。いざ危なくなったら彼は私のことを守ってくれるのだろうか。自分たちが未熟だからこそ、自分たちよりも実力が上に見える男性はあまり歓迎したくなかった。

「リアちゃん、お願いします。」

 シズがリアを手招きする。魔道の才能のある二人が協力することで、異界への門を開く負担を軽くしようという考えだ。

「わかった!やればいいんでしょやれば!」

 リアは渋々、男たちの指定した場所で解錠の魔法を唱える。当たりが外れてしまえばいいと思っていたのに…

 ズォッ

 周囲の空気を吸い込むようにして何もない空間に楕円の穴が開いた。

「ウソ…」

 男たちの言ったことは、果たして本当であった。本当なら異界の門などそうそう見つからないはずで、しばらくこの地でさまようと思っていたのに、至極あっさりとした異世界との対面であった。

「よし、俺らが先行するわ。」

「結構簡単に見つかるもんですね…。」

 アルバートとキーウィがリアたちが開けた穴へ勝手に入っていく。

「僕たちも行こう!」

 四人はお互いに顔を見合わせてから入り口に入っていった。他の冒険者パーティがこれに目ざとく気づいて集まってきていたので、リアはイッと威嚇をしてさっさと入り口を閉じた。

「沼地みたいだな…。」

 ブヨブヨとした足元と、むせそうな湿った空気があたりを漂っている。一行は沼地のど真ん中に立っていた。

(ダイアルは…安定してる。)

 アルバートはほっと安堵の息を漏らした。背後からキーウィが声をかけてくる。

「やっぱり予想通り、ですか?」

「…おう。」

 ダイアルをキーウィだけに見えるようにして、とりあえず持ち主と同じ空間にいることが確認がとれる。

「うわぁ!!」

 突然、パーティ内から悲鳴が上がった。地面から無数の何者かの手が泥にまみれて這い出る。ほとんど右手だ。

 アルバートはすかさず泥の手を蹴散らした。土くれが飛沫のように弾け飛んでいく。なるほどそんなに強くない。

 だがやがて手だけではすまなくなる。全身泥の人の形をした魔物たちが沼から上がってきた。

「……モンスターって本当にいたのか…。」

 後でルリに謝らないとな。

 カイたちは意気揚々と応戦を始める。それを見たアルバートは引き留めようとする。

「あ…おい、この足場じゃ分が悪い!安全なところにまず逃げて…!」

「いえ、ここは僕たちの力を見てください!」

 意外なことに、まだまだ駆け出しの彼らでも一体一体を確実に切り崩せていた。アルバートは頭をかかえながらも適当に寄る敵を斬りつける。

(弱……いや、これは…?)

 あまりの手応えのなさにアルバートは違和感を覚える。その間にもカイたちはがむしゃらに剣と弓と魔法をふるい次々と泥のモンスターを倒して前進していく。

「やぁ、これなら俺たち必要なかったかもですね。」

 沈む足を引っこ抜くようにキーウィが歩み寄ってきた。アルバートはそれには応えず討伐に夢中になっている新米冒険者たちを眺めた。

(数が減ってるように見えない…というか…)

 さらに前方にワラワラと人影がうごめいているのが見える。間違いなく人ではない。

「おい、退くぞ!このままだとまずい!」

 アルバートがとっさに叫んだ。

 その時である。

「うわぁ!」

 カイの手足が飛び散っていたはずの泥によって絡め取られた。泥たちは沼の中に少年を引きずり込んでいく。

「カイ!?この!離れなさい!」

 杖の先で殴りたくって泥を落とそうとするが粘り気のある泥はピカピカの鎧にこびりついて一向に落ちない。

 バーナードの弓もこの至近距離ではなんの役にも立たない。みるみるうちに足が沼へと沈んでいく。

「ああ、カイ!カイ!」

 慌てふためく冒険者を尻目にアルバートは決断を下し、その場を去ろうとした。

(…このままじゃ全滅する。悪く思うなよ…)

「ま、待って!」

 背後から聞こえる悲痛な叫びに対して、アルバートは眉間にシワを寄せた。泣きつかれようと、忠告を無視して調子に乗っていたカイ達が悪い…。

「…はっ?」

 耐えきれず振り返ったアルバートの顔が更に険しくなる。

 なんと柔らかい沼にキーウィもハマっていた。引き込んでくるモンスターもいないのに。

「おい、お前……マジかよ…。」

「す、すみません…。眺めてたら…」

 まとわりつく泥の魔物を自ら倒せてる時点でまだマシである。その奥ではいよいよカイの体半分が埋まっていた。引き上げようとしている三人にも魔物の破片がひっつき四人一斉に沼へと沈もうとしてるところであった。

「く、くそぉ!」

 カイが苦しそうなうめき声を上げる。

(ああ、ちくしょう…)

 アルバートが動き出した。

「魔法使いの!」

「何よ!」

「あれ持ってねえのか!マジックプレッサー!」

 リアはハッとした。

「ある!あるけどどうすんのよ!」

「どこだ!?」

「バッグ!」

 アルバートはブーツの先の仕込みナイフを突き出させ、足を取ろうとしてくる泥の手を蹴り切りながらリアのもとへ滑り込んだ。

(あっ鍵かけてやがる…!)

 お人好しパーティにおいて、これはなかなかな判断力だろう。

 だが所詮は簡単なパドロック。盗賊にとってこれくらいは基本のホである。アルバートはどかっとその場に座りカイとともに引っ張られるリアの腰を掴んだ。

「ちょっ…!あんたどこ触ってっ……!」

「ああ?」

 アルバートは苛立ちを顕にした。年若い魔法使いはその凄みに気圧されてしまう。今はそれどころじゃない。重心を下に持っていくのは引きずられにくくするための基本。昔カモにした武闘家もそう言っていた。

 二本針金を使い、片方で支えもう片方で鍵穴を探っていく。奥まで到達したら、ゆっくり形を変えないように針金を回す。簡易な錠であればものの一分もかからない。

 だがその間にカイは胸下まで引きずり込まれている。

「…っこれか。」

 あんまり中を覗かないようにして、ルリが見せてくれたシリンダーのような形を思い出しながら、バッグの中をまさぐっていった。

「早く!早くしてよ!」

「あいよ。」

 ズルリと筒が引き抜かれる。先端の細いノズルといい、ルリのよりもいくらか小型だが同じようなプレッサーを手にとった。

「これで!?どうすんのよ!」

「水圧で吹き飛ばすんだよ。キーウィ!あの水玉いくつか持ってるか?!」

 数日前のスープときに使った器具により作られた液体玉のことである。ただし今回中身は普通の川の水である。

「いくつかは!」

「じゃ投げてくれ!落とさせんなよ!」

 キーウィが足を取られながらも、ベルトについた玉を数個放り投げてくる。アルバートは片手でそれを受け取った。

「おら、構えてやるから、あんたは炎魔法の準備してくれ!」

「まっ、まってよ!後ろからそんな…くっかないでよ!」

 やはり男に免疫のない娘には背後から抱きかかえられるようになる格好に対して相当の抵抗感がある。じたばたと落ち着かず、なかなか発射されなかった。

「リア!アルさんの言う事聞いて!」

 カイは沈みながらもリアのことを諭した。それに勇気づけられたのか彼女もようやく腹をくくる。

「うっりゃあああ!!」

 怒りと羞恥がエネルギーになりルリには及ばずとも強い勢いで泥を弾き飛ばした。一瞬沈んでいたカイの腹部が見えた。

「もっと飛ばすぞ!」

 アルバートはすぐさま水を装填する。

「んもおおおお!!ヤケクソ!!!」

 激しい熱湯の乱打だった。

 みるみるうちにまとわりついていた泥が薄まり、吹き飛ばされ、三人で力を合わせてリーダーを引きずり出すことに成功した。

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