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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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八面六臂のしたり顔…の10

 いくつかのパーティがちらちらとアルバートとキーウィの方に目配せしている。先程「異界」という冒険者の大好きワードを口走ってしまったためだろう。どうせ、中にはいるのには魔道士が必要である。

「仕方ない…。なあ、そこの!」

 アルバートは手頃な四人組を見つけて遠くから声かける。ピカピカの鎧を着たおさな顔の少年と弓をつがえた顔の濃い少年。神官らしき白の少女とこれぞ魔道士と言わんばかりの黒ローブの少女。見たところ旅立ったばかりの仲良し四人組といった感じである。

 声をかけられたが、ローブのツンとした少女がほか三人の背中をおしてその場から離れようとする。アルバートはもう一度呼びかけた。

「助けが必要なんだ!」

 リーダー格なのだろう、ピカピカ鎧の少年がこちらを振り向いた。

「ちょっ…カイ!ダメ、あんな奴ら気にしちゃ!」

 ローブの少女が少年を抑えた。

「仲間とはぐれて。多分…こことは別のところに!」

 少年たちが近づいてきた。ローブの子も渋々その後ろを歩く。アルバートはキーウィに耳打ちをした。

「キーウィ、これから俺のことをアルって呼んでおけ。」

「えっ?」

 キーウィはキョトンとした。

「なにがあったんですか?」

 やってきたシバと呼ばれる鎧の少年がアルバートを見上げた。

「俺たちは、ここの…」アルバートは声を落とした。

「聖域を踏破しようと来たんだがな。」

「仲間がもしかしたら先にその中に行っちゃったんじゃないかと思いまして。」

 キーウィも続いた。

「あっそ!」

 ローブの少女は鼻を鳴らしてそっぽを向く。

「危険なのはわかりきったことじゃん!残念だけど魔法使えないようなあんたたちじゃ諦めたほうがいいわね!」

 警戒心と持ち前の傲慢さが合わさってとんでもなく嫌味なことを言われる。だがそんなことではアルバートは動じないし。キーウィは気にしてない。

「リア、そんな言い方ないだろう。」

「う…だって…」

 ローブのリアはカイにたしなめられて怯んだ。

「そこに行ったという証拠は?」

 今度は弓の少年が詰め寄る。アルバートはマジックダイアルを取り出した。そこの針の動きを見るように言う。確かに今や時刻がわからないどころか一秒ごとに針がいい加減なところを指して、ぐるぐると不思議な挙動をしていた。

「さっきまでは正常に動いていたんだ。だが突然これがこうなった。」

「壊れたんじゃない。」

 ぶっきらぼうにリアが答える。弓の少年とカイと白の神官の女の子がマジックダイアルを覗き込んだ。

「シズ、これわかる?」

「はい。」

 と神官のシズがうなずく。「ちょっとお借りしても?」と尋ねられたので、アルバートはそのまま手渡した。マジックダイアルをコツコツと叩きながらその構造を確かめる。

「おそらくこの動力は、お二人のお仲間の魔道士さんがつけたものですね。」

 ルリのマナを使ってこの時計は動いている。マジックアイテムは基本的に術者の状態に左右されるそうで、精神的に安定した者ではないと扱いは難しいそうだ。

(ルリのあの調子じゃこうなるのか…)

「ただこのような挙動を見せるのは、本体、すなわちこれを動かした本人のマナと切り離されてしまったときに起こります。」

「切り離されるその範囲は?」

「術者の能力にもよりますが…山一つ越えただけでは離れないと言えます。」

 つまりたった2時間でありえないほど遠くへ行ってしまったと考えられる。空間転移の魔法などは存在するらしいが、そもそもルリは他者の魔法に対して抵抗力があるため、誰かが魔法をかけようとしても自分以外の魔法は無意識のうちに拒絶する。

「おそらくこの場合、やはり異界に入ってしまったというように考えるのが妥当です。」

 シズの説明に少年たちは納得した。まだ不満そうなのはリアだけである。

「ぼくらも実は、異界を探していたので…」

「よし、じゃあここは協力といきましょう!」

 キーウィが思いついたように指を鳴らす。

「そう言っていただけるとありがたいです。僕はカイ。こちらは狩人のバーナードと、神官のシズ。あと魔法使いのリア。」

 紹介に合わせて少年たちがそれぞれ頭を下げる。リアだけはどうしても顔すら合わせない。

「えっと…彼女、リアの腕は確かで…。」

「そりゃ見ればわかる。大切な人のためならいくらでも力が出せるもんな。」

「え?」

 不思議な顔をするカイ。言われたリアは顔を赤くして抗議する。

「はぁ!?いきなり何言ってんの!?勝手なこと言わないでほしいんですけど!!」

 そうです。という答えとアルバートは受け取る。

「俺はキーウィ。勇者です。」

 パーティからえっ、という声が漏れた。それはそうだろうとアルバートはうなずく。だが思ったような反応とは違った。

「すごい!どこかで活躍してたんですか!」

「昨年の勇者番付、載ってましたか!?」

 わっと三人が群がってちやほやする。そいつは自称なんだぞ。ついでに勇者番付というのは、年間でおさめた成績(個人資産や依頼の達成や稼いだ賞金の合計など)をそれぞれが税務署に申告し、著しく活躍した者たちの上位数パーセントはランキング形式で毎年公示される。

「まあ、端の端のほうですけどね。」

 とキーウィは自慢げに語る。わあー!と少年たちから歓声が上がった。

 勇者番付でずるいのは個人資産である。キーウィは割と裕福な方で親がぽんと金をプレゼントして個人資産に変えてしまえば(当然贈与税でいくらか減るものの、いろいろやりくりして減税しているらしい。)勇者番付の下位くらいなら狙える。勇者を名乗る者にはあんまり金持ちがいないのでできる芸当である。

「バッカみたい…。」

「…同感だよ。」

 盛り上がる端っこでリアと一緒になってアルバートは冷めていた。

「……あんたの名前は?」

 可愛げのない聞き方である。だがそれぐらいアルバートには関係ない。

「俺はアル。しばらくの間だけどよろしくな。リアちゃん。」

 リアはまたそっぽを向いた。

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