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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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八面六臂のしたり顔…の4

 夜が明けて。

 タープの下でうたた寝をしていたアルバートが川の方からする物音で目覚めた。目をこすりながら辺りを見渡すと、キーウィがマットの上で大の字になって寝ている。不用心のように見えるが、ここは公共のキャンピング施設。警戒しすぎなのもかえって疲れるだろう。

 アルバートはフリティアがいないことに気づく。身を起こして目を凝らすが、朝日に照らされた森の中がうっすらと息づいている様子しか目に入らない。まさか、と思って恐る恐るルリの寝床の入り口を開ける。

 薄いタオルを肩までかけてルリが小さな寝息を立てていた。昨晩使ったハッカの香りがアルバートの嗅覚を刺激する。アルバートは起こさないよう静かに入り口を閉じた。

 あくびを一つしてから、アルバートはポーチをまさぐりながら火を起こして水を温め始める。その横でカップの中にコーンスターチの塊を砕いて、砂糖とミントの葉を少しずつ加えた。少し温まったお湯を少しずつ加えて混ぜていく。ねちねちと粘り気が出てきたところにお湯を注いだ。

 トロみのあるこのドリンクをゆっくり時間をかけてアルバートは飲んでいく。

「ずいぶん優雅なお姿ですね。」

 椅子にもたれてカップをすするアルバートに、どこからか戻ってきたフリティアが声をかけた。頭にタオルを巻いている。

(…水浴びしてたのか?)

 声には出さない。余計なことを言うと彼女が襲い掛かってくる可能性がある。ただ肌が少し湿り気を帯びている感じからすると間違いないだろう。アルバートはやキーウィは昨日の夜にそこら辺の雑木林に入って体を拭いていた。

 キーウィはあまり気にしない方なのだが、アルバートは体臭ものすごく気にする。それは彼が「先生」に教えられた盗賊の生き抜くすべの一つである。

『臭いは残してはいけません。人間誰しも臭いを持ちますですが、我々はそれを捨てねばならないのです。』

 相手に気取られない、ということは暗躍する者たちにおいて大事なことであった。

『あ、ただ、女性を口説く場合は別。たっぷり男の色香を匂わせなさい。』

 …そんなことも言われた。

「ふぅ…」

 フリティアは髪をタオルで包みながら水気を拭きとっている。こうして朝焼けの森で大人しくしていると、どこか令嬢めいた美しささえあった。元の容姿はいいのに、怪力で暴れまわり、その上業の深い欲望にまみれているとなると、本当に惜しいことしている。

「…何じろじろ見ているんですか…。」

 フリティアに目の端で睨みつけられる。

「あっ、いやあ…そうだ、フリティア。お前どうしてルリのテントの前から離れたよ?」

 特に理由なく眺めていたことをごまかす内容とは言え、一理ある質問である。彼女は危険からルリを守るだけではなく、仲間の男達からも遠ざけたがっていたはずだ。持ち場を離れるとは彼女の考えと矛盾している。

「…あなたが番犬のようにそこで眠っていたからですね。」

「え、でも起きなかったろ?」

 自分で言うのもなんだがここの平和な空気に充てられて少し油断していたのは事実である。

「私が川中に石を投げ入れた時には目覚めたではないですか。」

 朝の音はフリティアが原因だったようだ。

「あれほどの音を聞き逃さないのであれば、そこら辺の賊には襲われないでしょう。」

 確かにアルバートは気配に敏感である。だが、そんな石よりも、いつの間にか持ち場を離れたフリティアに気づけなかったことの方に焦ってしまった。

「フリティア、お前、暗殺者の資質あるんじゃねえの…」

 これにはフリティアは何も答えなかった。

 やがてルリとキーウィが起きだしてくる。先に起きていた二人は朝食の準備を始めた。

 海神の山はやはり観光地として発達していて、朝から神の社へ参拝に行く目的の車が道路を通っていくのがちらほら見受けられる。登山コースの入り口には広い駐車場が構えられており、参拝者たちはここに車を置いてハイキングか、ゴンドラ輸送かを選んで山の社を目指す。当然ゴンドラで上まで行く方が直線距離で最短コース、行きも帰りも楽ちんである。

「へぇ、馬車でもここまで来れるんですね。」

 駐車場の隅に蹄を鳴らしながら待機をしている3,4台の馬車がキーウィの目についた。

 車があるとしてもそれは金持ちしか乗れない。金を持たない者たちは麓のシャトルバンか、馬車を使ってここまでやってくる。

「帰りはあれに乗りたいなぁ…」

 とうっかりキーウィがつぶやいてしまう。それを聞きつけたルリがすかさず反対をする。

「ダメです、アルと似たようなことは言わないでください。これは試練の旅。帰りも徒歩ですよ!」

 頑なである。だがそこはキーウィ、あまり言い詰まることもなくルリを説得する。

「いや、考えても見てください。巫女様のいう『旅』荷馬車はぴったりだと思いませんか?パカパカする蹄の音を聞きながら荷台に揺られると冒険している!っていう感じが出るんですよ。車では味わえない感覚ですよ?」

 全然わからないが、ルリには少し響いたようだ。

「冒険……わかりました、少し検討してみましょう。」

(相変わらずチョロい…)

 だが登りのハイキングはルリが譲らなかった。お供3人の体力には問題ないが、ルリのことについては心配である。緋色の超ロングスカートが股のところで二つに分かれているということはこの間知った。なんでも元は可愛いからという理由で分かれていない物を履いていたそうだが、とある理由により普通の形状の袴を選ぶことにしたらしい。そんな歩きにくそうな物を履いて山道を登っても大丈夫なのだろうか。

「私の街での僧侶さんたちもこういう感じですから。」

 とルリは言って聞かない。不安は残るが、今はアルバートだけではなくフリティアも一緒にきている。意を決して一行は山登りを始める。

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