少女のことも受け入れそう…の8
絶好の旅日和とはいいがたい少し薄曇りの空の元、救世の巫女と彼女を守る4人の男女が各々身支度を整え石門に集まっていた。
長い救世の旅、つかの間の休息をとるために都を目指すルリ一行。アルバートは少し手前のこの街にやることがあると言って残ることになった。本来ならルリはそういった行動を許したくはないのだが、しかたない、彼女を慕うフリティアもそこまで危険なことはしないはずだと主張してくれたので、アルバートの申し出を受け入れることにした。
「…でも、いいですか、アル。」
「あいよ。」
いつものように締まらない顔でルリの話を聞く。これがルリには穏やかな目に見えるというのだからなかなか思い込みというのは厄介なものである。
「真剣に聞いてくださいね、やっちゃダメなことは守ってもらいますからね。」
この大きな石門をくぐってまっすぐ道沿いに行けばもうそこは帝都である。ここでしか手に入らない品物はわんさか存在し、大陸各地の特産品などもそろえられている。大きな市場がある。めったにお目にかかれないマジックアイテムなどの発明品だってあるかもしれない。
そう言った期待と興奮が高まる道の脇でルリはアルバートにあれこれと言いつけをしている。
「…まず、危険なことはしないこと。これは一番大事です。」
咳ばらいを一つ。目を閉じて真剣な表情は崩さず言って聞かせる。
「次に無駄遣いもダメです。」
一つ一つルールを告げるたびに指を折って数を数える。
「3日以上かかりそうでしたら必ず手紙で連絡をください。ここのポストから送ればその日のうちに届きますから。」
ぽんぽんと正門のそばにちょこんと置いてあるポストの頭を叩く。
「あと、これは間違いなく守っていただきたいのですが…」ちらり、と視線を送った。
「夜遊びとかは本当にダメですからね。」
「…なんだそんなことかよ。」
アルバートは笑った。
「そんなこと、ってアルが実はそういうところ行きたがってそうだってわかっているんですからね!?」
「誰が言ったんだよ…。」
「キーウィですけど!」
アルバートの鋭い視線が、そっぽ向いてならない口笛を吹くキーウィに突き刺さった。
「あのな、ルリよ。」アルバートは彼女を諭そうと少し腰を折った。
「…キーウィの言うことも今回は一理ありますからね。」
だが、珍しく目を閉じて会話を拒否してきた。どうしても守ってもらいたい、そういうことだろう。アルバートは誤解、というか説得をあきらめて頭をかく。
「心配するなよ。用事が終わったら必ず行くから。」
「『必ず』。言いましたね?」
ルリがキッとアルバートのことを睨みつける。言質を取ったという主張だ。対してアルバートは、今度こそ本当に穏やかな目でうなずく。
「ああ。言った。」
ようやくルリの細い、整った眉毛が垂れて柔らかくなる。
「なら、その。これ。」
おずおずとルリが手を開いて見せたのはいつぞやのペアリングの片割れである。この魔法道具の事実が分かった後、少し気恥しくなってルリは外し、アルバートからも受け取っていた。おそろいはどうもうれしくて恥ずかしい。
「ちゃんとつけててくださいね。」
少女は笑う。
やはりどこか不安なのだ。多分今日の曇り空のせいだろう。ルリは首を一度振った。
「また向こうで。早く来てくださいよ。」
もう一度ルリは笑った。