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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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世界が闇に包まれる…の2

「まったくどいつも…」

 アルバートはブツブツと恨み言をつぶやきながら、彼が採ってきていた食材の下ごしらえをしている。シカなどが取れれば、とは思ったが彼は狩人ではないので鳥や小動物を簡易の罠にかけた。

「あーあ、さっき走ってくるとき何匹か落としてたか…」

 思いのほか少なくなった食料に少し落ち込んだ。

 ルリもキーウィも食事の支度をしている。

 キーウィが薪に火をつけようと火種を必死に吹いていた。アルバートはその尻を冷ややかに見つめる。

(コンロバーナーは持ってきてるけど…あいつは…あれでいいや…)

「キーウィ、私に任せて!」

 尻を突き上げ地面にへばりつくように苦戦しているキーウィの前にルリが躍り出る。きらりと手のひらが輝いた。

「こんなの私の炎魔法で…」

「あっ、待て!」

 アルバートが叫んだ時には遅かった。

 最大火力で薪に火が付く。いや一瞬にして消し炭にされ、落ち葉や周りに飛び火した。

「あっ!?えっ!?」

 森の所々が燃え始めあわてたルリは水や冷気の魔法の印を切る。

「それはしなくて…!」

 瞬間冷凍というやつである。

 とりあえず火は収まったので良しとしよう。側にあった水をかけようとバケツに手をかけたまま、魔法のとばっちりで手が凍り付いたアルバートはうなずいた。

「……っすみませんでした…。」

 ルリに謝られ那賀rアルバートは小型の送風機に凍った手を当てていた。

 ルリが炎魔法で溶かすと言い出したが、それだと凍ったり焼けたりを繰り返す羽目になるので断った。次いでキーウィが僕の剣で砕きましょうなどと提案したが、自分の腕ごと砕かれそうなので凍ったままの手で殴っておいた。

「キーウィ、そういやスープはどうした?」

「バッチリです。」

 ドンといつの間に作ったのか煮えたぎる寸胴鍋を持ち運んでくる。

「…えっ何、その鍋。」

「さっき川で拾いました。」笑顔のキーウィ。

「馬鹿なの?」

 この量があれば宴会が開ける。以外にも料理の方はうまくいっていたみたいで香ばしい塩気のきいた香りが鍋から漂ってくる。

「…全部あの、ミソ味なの?」

「ええ、アルバートさんも好きだろうから余すところなく使わせていただきました。」

 ミソはルリの地元では比較的保存もしやすい貴重な調味料。ルリが持ってきたものを一口もらっただけで、異国の味に二人の男は魅了された。

 調味料の小壺が空っぽである。芳醇な残り香がアルバートの目元をくらくらさせる。

「アル、また買えばいいですから…。」

「それよりこれどうするよ…軽く見ても30人分はいけるぞ。」

「では10日は持ちますね。」

 本気で言ってるのか。

「あ、巫女様の魔法で凍らせるのは保存いけますよね?」

 本気で言ってるのか。

「まあまあ、とりあえずアルバートさん、一杯。」

 自分勝手なキーウィから、器にチャッと注がれて手渡される。「ハイ、巫女様もどうぞ。」こういう時は仕事が早い。アルバートはまだまだ文句を言いたいのにさっさと全員分配膳されてしまった。

 気を取り直して準備ができた食卓にルリがつく。そこへ給仕のようにアルバートが今日の料理を運んできた。

「アル、今日のご飯は…ああああっ!」

 丁寧にローストされた首無し焼き鳥にルリがおったまげる。

「なんだよ。」

「動物の肉っ!?だめですよ!言ったじゃないですか私、肉はお魚しか食べないって!」

 彼女は目を覆いながらアルバートを指さして非難する。

「釣り具がねえもの。」

「そうではなくてっ…」

 ちらっと指の隙間から哀れな小鳥の焼死体を見つめる。

「うううっ…」

 しかしすぐに目をそむけてしまう。向こうではリスだったものが、何も考えていないキーウィの手によって毛皮を剥かれ火にくべられている。ああ、今でもその悲痛な鳴き声が聞こえてきそうである。何たる凄惨な現場だろうか。

 あたりが急激に寒くなる。

(またかよ…)

「ルリ、いいから食べよう。何事もチャレンジだぞ。」

 ぶんぶんと首を振って拒否の意志を強く示す。

「……あっそ。」

 さすがにこの程度では混沌の闇はおとずれないだろう。と踏んだアルバートは、一番小さい鶏肉にかぶりついた。

「うーん、やっぱ歯ごたえが違うなあ。」

 アルバートはほくほくと笑顔で食いちぎっていく。

 ここのところルリの意向で野草とか木の実とかルリの携帯食とかで腹を満たしていたので、そろそろ動物性のタンパク質が恋しくなっていたところだった。

「アルバートさん、こっちにスパイス分けてもらっていいですか?」

 アルバートが出してやったコンロの前で、真剣に肉を焼くキーウィが片手を突き出してくる。アルバートはためらわず小瓶を渡してやった。

「香草はいるか?ワインとかは?」

「あっ欲しいです。」

「なら俺のリュックの外ポケットに乾燥したのとか入ってるから勝手に出して使ってくれ。…くれぐれも適量でな。」

 不穏な空気を出しながらギュウゥと目を固く閉じるルリを、悪い笑みを浮かべてアルバートが眺める。

「いやあ、森の中突っ切るってのは俺は反対だったが…うまい飯にありつけるならありかもなあ。」

 本当なら舗装された大通りを通って山を越えて次の街に到着する予定だったのだが、ルリとキーウィが森への侵入を所望したのでしぶしぶそれに従った。案の定、途中で道が分からなくなりかけたり、なかなかキャンプ地点を決められなかったりと大変だったが、ようやく見つけた少し開けたこの場所も、こうしてみると心地がいいようだ。

 ジャッと音を立ててキーウィの肉が煙を上げる。程よく焼け色が付いた表面からスパイスとハーブの香りが果実酒に乗せてアルバートとルリの元まで漂ってくる。

「ううう…」

(ほれ見たことか。)

 人は目を閉じれば鼻が利くようになる。鼻が利くところにこの香ばしい煙は食欲を刺激するだろう。見るからにルリから出ている負の気が弱まっているのが分かった。

「ふぅ…」

「おっ焼けた?」

「はい、今日はなかなかいけますね。さすがコンロバーナー。」

 キーウィがさらに盛り付けて自分の席までウキウキしながら持ってくる。つややかな脂とパリッとした表面がなんともおいしそうだ。キーウィは自画自賛しながら舌鼓を打つ。

「ちょっと失礼。」

 アルバートが皿ごとかっさらった。アルバートはベルトに取り付けてあるナイフをさっと取り出す。

 あれよあれよという間に、自慢の丸焼きがスライスされていった。

「あっ…あっ…?」

 呆然とするキーウィのことはお構いなしだ。アルバートはわざと匂いがたつように切り開いたり大きめに切り取ったりしている。

「ほら、ルリ。ちょっと食ってみろって。」

 キーウィの自慢の焼肉はルリのための食事にされた。ただあまりおいしくない、骨に近い部分は全部キーウィに返還される。

「そ、そういう、きょ、強要は…いけないと思います!」

 だが鼻は香りに負けてよだれが垂れている。

「初めて嗅ぐだろうこんな香りは。キーウィが丹精込めて焼いたんだぞ。」

(自分のためなんだけど…。)

「ルリの目の前にあるのはただの料理だよ。」

 今まで閉じていた瞳を恐る恐る開く。まぶしいダイオードの光とともに、美しく切り分けられた香ばしい肉が目の前に盛り付けられていた。

「業の深さを感じます…。」

「難しいこたぁねえ、ルリは俺たちにミソという素晴らしい食べ物を教えてくれた。だからそのお礼だよ。」

「お、お礼…。」

 そう、お礼。ニコニコと手を差し伸べるようにアルバートがフォークを差し出す。

「リ、リスさん…い、いただきます…!」

 食べた。

「あっ!?おいしい!!!!」

 ルリがまばゆく輝く。比喩ではなく正の気が彼女から一気に漏れ出した。

「アル…でも、これは…」

「心配すんな。」

 アルバートの声がよく通る。

「その子を殺したのは俺だ。下手人は俺だ。手を汚すのは俺だけでいいのさ。」

(またアルバートさんわけわかんなこと言ってる。)

 キーウィはぼーっとやり取りを眺めている。

「アル…しかしあなただけにそんな業を…」

 ルリは身を震わせる。

「俺を気遣ってくれるっていうなら、お前が食ってくれなきゃ浮かばれねえよ。」

「はっ、はい!」

 残りのお肉は難なくムシャついた。月明かりがまぶしい。そろそろルリはテントで寝る時間だ。

(チョロいぜ…。)

 そして今宵も世界が闇に包まれる…。

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