少女のことも受け入れそう…の6
カノは突然笑った。
「…ジブンをついてこさせたくないほどの理由があるというわけですね。くへへ、まあわかりましたよ。」
いきなりカノの態度が軟化して不安になりそうだがアルバートは驚かない。対峙するカノの眼は暗闇からしっかりとアルバートのことを捉えていた。
「師匠、おとなしく自分を受け入れておいたほうが良かったかもしれないですよ。」
「…お前が俺を脅してもな」
これは決して彼女を見下したからの発言ではない。カノはこの部屋まで自分のこと全く悟らせず誘導してきたのだから、このように牽制をしないと間違いなく次も出し抜かれてしまうだろうからだ。同じようになにか仕掛けてきても、今度は必ず看過するぞ、というアルバートの意思表示だ。
だがこの発言がまずかった。カノはこれまでになく暗い表情をした。
カノが黙ってアルバートの背後にある扉を顎で指す。もう出てってくれという合図である。ここで素直に出ていくなら、それは二人の明確な決別を意味していた。それぐらいアルバートは察することができる。
「何やっても師匠は自分のことを認めてくれないってことですね。…なら、もう。いいです。」
冷めきった口調。
「俺に認められることになんの意味があんだよ。」
アルバートは寂しげな目をする。
カノは顔をそむけた。
「認めてと言うなら、そう。俺のことなんかすっかり忘れればいいんだ。」
「……そういうこと言うんですね。」
カノには薄っぺらい嘘はすぐに見抜かれてしまう。ルリに話しかけるような甘ったるい言葉には全く聞く耳を持たない。だから正直に伝えた。
「一度道をそれた人がそう簡単に元の明るいところ戻れると思わないでくださいね。」
ジブンもアナタも。
毛布にくるまりもう自分を見つめてこないカノを、アルバートは静かに見ていた。そのまま寝息が立ち始める。
盗賊に情けなどかけてはいけない。寂しい息遣いを聞きながらアルバートは音もなく立ち去っていった。
「ああっアルバートさん!探してたんですよ?!」
「ん。」
外に出るとキーウィが細い、建物と建物の間の隙間に向かってベッタリと張り付き何かを覗いていた。いつもならどついたりしてくるところ、何もないのでキーウィは首を傾げて尋ねる。
「もしかして、もう犯人と決着つけちゃったんですか?」
アルバートはそうだと一言だけ答えた。
「あ、ならよかった。それじゃ帰りましょ。もしかしたら、抜け出してとっちめに行ったことバレてみんなめっちゃ怒ってるかもですね。」
キーウィが笑顔を見せる。
月が傾いていく。