少女のことも受け入れそう…の5
盗んだことは不問にする代わりに今日会ったことはなかったことにしようと提案をした。だがこれはアルバートを捜し求めていたカノにとっては到底受け入れがたい申し出である。
「やです。」
昔ついて行きたがった時もそう言って駄々をこねた。面倒臭がって適当にあしらうと割としぶとく追跡される。
「全く、俺の何に期待してんのか知らないけどな…」
下心から始まったなりすましの旅だが、この頃はなんだか本当に自分が騎士になったような感覚があった。アルバートが切に望んでいたまっとうな道が目の前に拓かれ始めている気がした。
「じゃあ…ジブンも師匠についていきます…一緒に傭兵でも何でもやりますよ…」
たしかにそれで面倒を見てやるほうが彼女のためにはなる。だが騎士の精神を持ち始めていたとしても、過去のこそドロ稼業がチャラになるわけではない。うっかり過去を知る彼女から、自分の真の姿がルリに漏れ出でもしたら再び道を外れることになる。
それだけはなんとしても避けたかった。
「お前は俺に人生を縛り付ける必要はないんだぞ。」
「師匠を見て…あなたを知って生きてきたのに今更そんなこと言うんですか?」
彼女は勝手についてきていただけだ。だが、彼女を完全に無視しなかったのもまた事実である。
「あの街で置いてったのは、あそこで普通に生きろって意味でな。」
強引に置き去りにする前も何度も言って聞かせていた。だが彼女はどうしても聞かなかった。
「俺はお前が思うほどちゃんとした人間じゃないんだからな。」
「でも今は、ちゃんとしてるんでしょう?」
二人の話は平行線であった。