少女のことも受け入れそう…の1
下の階から自分を呼ぶ声が聞こえる。もっと静かに近づく予定だったのだが…
(まああとは慎重に部屋を当たれば…)
窓から宿屋の主のいたカウンターをのぞいたとき、どこの部屋が埋まっているかは壁の棚にあった鍵の位置で大体しぼることができる。アルバートは扉にかけられた「201」の木札を指でなぞった。
夜中に全く知らない男が自室に入ってくるということは言うまでもなく恐怖そのものである。だからこそ慎重に動かなければならない。人を呼ばれたらおしまいなのだ。その場合悪いのはどう取り繕ってもアルバートの方になる。
「いやぁ、一緒に来た人がいるんですけど…」
階段下からキーウィの声が聞こえた。どうも宿の主を待たせて店の外を探すようだ。
(注意がキーウィにそれてる今のうちだな)
偶然ながら悪くない状況にアルバートは感謝した。さて静かに…
壁とドアに耳を傾け中の気配を探る。起きていればノック。眠っていたら後回し。近づく足音で大体の体重と骨格を予想。想定しているものでなければ影に潜んで出てくるものの様子をうかがうだけにする。
動きはもはや盗賊そのものである。
懲らしめたいというだけでなぜここまで、正体不明の少女を追いかけてしまうのか。
「……見つかりそうです?」
「ああ…もう少し……ッ!?」
少女の声に不意をつかれたアルバートが前方に転がって距離を取る。腰のナイフに手をかけたが、柄の手応えがなかった。
「くへへ、油断してたんですか?」
暗がりから怪しげに微笑む少女。その手には自分のナイフが収められていた。