少女が現れ四苦八苦…の10(終)
その者の足取りは意外なことにかなりの精度でつかめている。こう都合よく何人にも目撃されている少女は、それほど人目を引く存在だったのだろう。
「誤情報の可能性とかないですかね?」
「だとしても別に損はしないからな。」
偽の情報を掴まされていたとしても、特に大きな痛手にはならないとふんでいる。キーウィに静かにするよう合図をし、二人してその件の少女が今晩泊まったと予想される宿の側に身を潜めた。
窓から中を除くと小太りの宿の主がチェアの上でくぐもった寝息を立てている。ロビーに人影は見えず、まだ夜は長いのにすでに未明の静けさだ。ガスランプの火が揺らいでいる。
アルバートは入り口の戸をゆっくりと押した。かすかな手応えを探りながら、戸の上についた鈴がならないよう静かに力を加えていく。足の先が入るほど開いたとき後ろから急な力が加わった。
「その扉そんなに開けにくいですか?」
キーウィの親切心によって、さびてざらついたベルの音がロビーに響いた。
「ンがッ…グググ…」
驚いた主が息をつまらせ目を覚ます。
拳で右目、左目とこすりながら、来訪者に手を上げる。
「や、や、どうもこんばんは。遅いお着きで。いらっしゃいまし。」
ヘコヘコと主は丁寧にキーウィを迎えた。客ではないと伝えるためキーウィは宿の主に答える。
「ああ、いや僕らはですね…」
「“ら”?」
店主がキョロキョロとキーウィの背後を覗いた。
「え、いや……あれっ!?アルバートさん?!」
キーウィが振り返るとそこには誰もいなかった。慌てて外に顔を出すが夜風が一吹きしただけであった。
少女の影を追ってきたのになんだってこんな。アルバートはため息を付きながら気づかれることなく宿の二階へ上がっていった。