少女が現れ四苦八苦…の9
やがて静かな通りに出る。しかし流石に帝都へと続く道の入り口の街。建物の隙間からながらてくる不穏な空気は微塵も感じさせない。その先から誰かが見つめているような不気味さもない。きれいなのではなく、厳粛なのだとアルバートは悟った。
そんな街に潜むコソ泥を一人、とっ捕まえるだけだ。
「なんで一人だと思うんです?」
「複数人の場合、荷物を分担できるから盗みを働いたすぐ傍の街で売り払うとか、足がつくような真似はしなくていいだろう。」
「定住してるとかそのまま逃げ出したとかは?」
「その線はなくはないから街の人に聞いてまわってたんだ。」
定住はしていない、あの店には初めて売りつけに来たらしい。あそこの店主は言い値で買ったと抜かしていたが、そこまで高額をふっかけられなかったので買い取っただけの話だった。
その娘の行方は付近の他の店が見ていた。そもそも人通りが少ない路地そこに入っていった人出ていく人、見ている人は見ている。
(あの路地には防具屋さんしかめぼしいところはないはずなのになぜ?)
おおよそ少女とは似つかわしくない場所。冒険者にしては華奢だったので余計頭の隅に焼き付けられていた。
キーウィが言っていた少女の特徴と店番の女性が言っていたものは合致する点が多かった。
「ナンパだと思った…」
「アホが。」
ちゃんと一人ひとりに人を捜していると断りを入れて会話をしていただろうが。
必要な情報と足取りが一日、いや三、四時間ほどで集まってしまった。このことからアルバートはとっちめてしまおうという思考に至ったのである。
(相手の甘さが救いだな。)
盗賊として甘すぎる。不殺主義なのは共通しているが、足取りを掴みやすすぎる。普通なら肩当てや防具類は身につけることもできるし、それほど大きなものでもないのでそのまま行方をくらましたままなのが正解だ。
(しっぽを見せた以上はきっちり精算してもらおうか。)
アルバートのプライドの問題であった。たしかに被害にあったのはキーウィであり、その間抜けな行動のせいなのだが、彼の口から顛末を
聞いたとき一瞬感心してしまった自分がいる。
危険にわざわざ飛び込んで実力を見誤らないとは。人が油断する瞬間を知っている。しかも判断を遅らせる方法もわかっている。
(そこまでしておいて、結果がこれかい。)
確実に追い詰めている、アルバートは確信していた。