少女が現れ四苦八苦…の6
「俺の勘違いじゃなきゃ、こりゃどこだったかの紋章じゃなかったか?」
「へぇ、そうなのか。そりゃ知らなかった。」
そううそぶく店主の一挙一動をアルバートは見逃さなかった。やつは間違いなく紋章の価値を知っていて高値をつけている。紋章の価値を知っているということは、こういう場の取引に出していい代物ではないことも当然わかっている。
家紋、紋章は身分証でもある。故に、店売りされない特注の一点ものである。それ以外はまずない。持ってきたものから買い取った、これをリスク承知で売る。この品物は、家に無関係な者のなりすましを許してしまう代物である。アルバートのような輩には願ったり叶ったりだが。
「…さあさ、買わねえなら出てってくれねえか。」
店主はこれ以上話すつもりはないと追い払おうとする。
「…いやあ待てよ?もしこの紋章が名の通ったところのものだと…あんた、まずいんじゃないか?」
「そんなこと言われても俺ァ知らねえもの。」
知らない、で通すつもりである。知らぬ存ぜぬの一点張りでたとえ追求されても乗り切るつもりである。
「そうか知らないで通すんだな。」
「そうだよしつけえな。」
アルバートはぐいっとキーウィの腕を引っ張ってきて、店主に彼の胴当てを見せた。
「あっ…?」
彼の胸に描かれたのは同じ紋章、というか完全にキーウィのために彫られたテアロア家の丸鳥の紋章である。
「いやぁ、知らねえなら仕方ない。見ての通り、その中途半端な防具一式はもともとこいつのものなんだ。」
少し前に盗まれたらしくてな。と笑う。
「な、な…」
店主はワナワナと震え、相手の企みを探ろうとする。
「二つほど選択肢がある。一つは盗品であるということを黙る代わりにそれをタダでこいつに寄越す。もう一つはこの品を持ってきたやつの情報をくれれば、買い取ってやる。」
店主がどちらを選ぶかは明白であった。
「わ、わかったよぉ、このちょっと前に女が売りつけてきたんだよ。」
アルバートはうなずいた。
「初めて見る奴で、品物の出処は語ろうとしなかったがかなりいい値段で売りつけてきたんだ。」
「ほお。」
「この街には多分初めてだろうからもうどこいったかはわからねえ。次来るかもわからねえ。」
「うんうん、十分だ。」
アルバートは笑った。
「じゃあ、約束通り買い取ってくれるんだな。」
「ああ、そうとも。」
かなりの高額である。これをさっさと払うとは…と思っていると、アルバートは続けた。
「あ、そうそう。あんなその紋章の価値を知らないなら、その高値はおかしくないか?」
店主は苦い顔をした。