少女が現れ四苦八苦…の1
旅芸人を装った巫女の護衛になりすますアルバートはさっそくその行動を咎められた。別に旅芸人を装ったのことでもなく、なりすましがバレたわけでもなく、一人で勝手にふらふらしたからである。
(子どもじゃあるまいし…)
せめてオーギかキーウィのどちらか連れてほしいというのがルリの意見である。
彼がまたどこかに行ってしまったと知った後、あの歓声の中心で彼を見つけ、終わるやいなや静かなところに引っ張っていったのである。
「…言い分を聞きましょう。」
キーウィのときと違って情状酌量の余地はあるようだ。
「怒られるのは覚悟の上だった。」こういうのは相手の調子に合わせながら自分の意見を述べるのが良い。
「キーウィの防具代と一泊の宿泊費が即金で必要だったんだよ。勝手な行動をして心配かけたのは謝る。」
そう申し訳なさそうに言われると、心根の優しいルリは簡単に矛を収めてくれるのである。
「そ、そういうことでしたら…」
「いえ、ルリ様。禁止された行為については許してはいけないですよ。」
ただしフリティアはそう収めてはくれない。
「これはいい、これは悪い、と一つのルールの中で例外を出し始めたらきりがありません。事情はあったにせよ大なり小なりきちんと罰を与えるべきです。」
もっともである。
「まあまあ、フリティアさん。そう入っても我々も少々路銀が心もとなくなってきた頃だったのです。それほど危険ではなく、素性も明かさず、必要なだけのお金を集めて帰ってきたアルバートさんをそこまでは責められませんよ。」
オーギがアルバートの弁護に回ってくれた。キーウィは自分にも関わることなのにどちらにもつかず事の成り行きを見守っている。
「え、お金が足りない…?なぜです?」
(いつも高えホテルに泊まるからだよ!)
とは口が裂けても言えない。
「アルバートやキーウィはともかく、オーギ様はこちらに合流して日も浅く浪費されているようには見えませんのに。」
(割とフリティア自身は浪費しがちだと思うんだが…)
心の中で突っ込んでおく。
「そ、それにですね。お金の問題でしたらある程度経費で落とせますし、本当に足りないのでしたらここの宿代ぐらい私がまとめて払いますよ?」
「えっ?」
信じられないことを聞いた、経費で落とせるというのも初耳であったし、それ以上に
「フリティアさん、ここの宿代もしかして全員分お一人で払えるんですか…?」
すました顔でフリティアは頷いた。
「あ、あんた何もんだよ…。」
流石にそんなに懐の深さを見せつけられるとみなたじろぐことしかできない。
「ワルディ家というのは失礼ながらあまり聞きませんし…」
「一応貴族の出ではあります。新興貴族といいますか、この度の冒険者景気のおかげで父が一代で成り上がれちゃったんです。」
なんとも羨ましい話である。ワルディ家はこれまであまり見向きもされない模造刀などコレクション向けの美術品を取り扱っていたのだが、流石にそれだけではうまく経営が回らず各地の武器屋にシンプルな品物を卸すようになった。美術品を取り扱っていたことによる目利きのお陰か、コストパフォーマンスのいい品が揃っていると口コミで評判になり全国への武器仲介業を始める。これがちょうど沸き起こった昨今の冒険者ブームに後押しされて爆発的に業績を伸ばしてきたのである。
単純に言うなら、フリティアは成金の娘である。
「そう言われるのが嫌なのでおしとやかに過ごしていたわけです。」
残念ながら彼女はおしとやかではない。