不審な少女にご用心…の9(終)
突如始まったマスク男の大道芸に道行く人が集まってくる。人が人を呼びあたりはごった返している。器用にナイフを使って放り投げていると、いつの間にかボールが一つ混ざった。かと思ったらいきなり自分の腕をナイフで切りつける。
「あっ」と小さな叫びが湧きおこるが、彼の腕はどこも傷ついていない。いや正確には袖だけが切れて落ちる。
その瞬間、どよめきが歓声に変わる。
男が足で木のカバンを小突くとパカっと勝手に開いた。ここまでくれば観客は何が必要かはわかる。投げ銭がシャワーのようにカバンめがけて降っていった。
その光景を目のあたりにした最前列で見ていた子どもが、手持ちのお金を持っていなくて困っている。中には母親にせびりに行ったのか人垣の奥へと突っ込んでいく子もいた。まだ幼い子がたまたま持っていた花を一輪恐る恐るそのカバンに入れる。
マスク男は驚いた仕草をして、その子に深くお礼のお辞儀をした。満足そうに戻っていくと、困っていた子どもたちも花を添えにやってくる。謎の興行は一時間に満たない間に大成功となった。
その男の姿を人垣の影からこっそり見る少女がいた。男はその姿に気づいていない。芸が終わり男が去ったときにはその少女もどこかへと消えていた。