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スクセの巫女がチョロすぎて…  作者: アホイヨーソロー
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不審な少女にご用心…の8

 しかたない。

 アルバートは意を決したように膝を叩き立ち上がった。

「ちょっと出かけてくる」

「ええ?どこへ…」

 ルリに止められていた単独行動を悪びれる様子もなくしようとするのでキーウィが引き留める。

「まず金がない、フリティアの意見は変えられない、ルリも割とここを気に入っている様子…男三人を一室に詰めたところでさほど安くはならないだろうよ」

 それは、そうだ。2人部屋と3人部屋ではそもそもかかる費用が違う。一人あたりは二人部屋の方が高いが、先ほど言ったように、翌日キーウィの装備品を買うお金が必要になってくる。彼以外の残りの3人でカンパしたとして、今の手持ちの六割強は無くなる。

「やっぱり『クエスト』とかやった方がよかったのかなあ。」

 『クエスト』というのは冒険者向けの賞金つきアトラクションのようなもので、やれ森に行ってキノコを採取してくるようにとか、鉱山にいき鉄鉱石を採掘してくるようにとかお手伝いレベルのものが多いのが実情だ。依頼主をきちんと見ればよくわかるが、人手不足の各企業が格安で日雇いのアルバイトを集める手段の一つなのである。冒険者向けの誇張された広告と射幸心を煽るような文言のおかげで、ただの炭鉱夫替わりの仕事をまるで魔物退治のように見せかけている。

「そんなんあほくさくてやってられるか」

 大体の大人はこういって鼻で笑う。まだ未熟な世の中に飛び出したばかりの若者のやりがいを搾取するシステム、それが『クエスト』なのである。

「でも賊討伐とかやりやすそうなのあるじゃないですか。」

 これはその地域の自警団からの依頼が多い。困っている人たちを助けたい、英雄を志す冒険者に人気の仕事だ。それこそ労働力の使い捨てなのだが、キーウィのように正義感のあふれる若者たちはまんまと引っかかってしまう。

「もっと賢く稼ぐんだよそういうのは」

 そう言ってアルバートは引き留めるキーウィを無視して街の広場へと消えていった。

「オーギさん、どうしましょう」

「そんなに危険なことはなさらないはずですよ、何もない状態からどうやってお金を作り出すのかは気になりますがね」

 まっとうに稼ぐならどこかで仕事を引き受けるのが一番簡単で安全な方法である。ただしまとまった金を手に入れるには日にちがかかる。他には手っ取り早く商売を始めてしまう方法。安く仕入れて高く売るという基本的な行為である。しかし、この街で諸々の手続きを終える必要がある。ギャンブルで稼ぐのは、余裕があるときにしかやらない。

 こういう時に役立つのが一芸を身に着けておくことである。

 アルバートはまず、路地の端で靴を磨き始めた。清潔感を出すためによく研いだナイフを手鏡代わりにして髪を整え顔面のチェックをする。あたりを見渡し、ファストファッションの店からアタッシュケースを調達する。なめし革のは高いので木材の簡素な作りのものだ。剣を研ぐ砥石とやすりを取り出し買ったばかりの手提げかばんの端のバリをとっていく。ある程度見てくれがよくなったところで身に着けていた道具の一切をカバンに丁寧にしまい、身一つで広場へと戻った。

 広場に謎のマスクの男が現れる。少し不気味なほほ笑みのお面に周囲の人は一瞬身を縮こまらせた。

 つるつるのカバンを手に持ちまっすぐ中央と通り抜けていく。静かに吐息すらも聞こえぬその男に、あたりの人は目を奪われた。やがて広場の端までくると、辺りの人に背を向けたまま剣をぬらりと抜き取る。その何人かの人が何が起こるのかとじっと身構えていた。

 急に男が剣を振りかぶった。

 あっと周囲の人が叫びだしそうになったところに金属のこすれる音が広場中に響き渡る。

 男は何を切ったのか確認しようと人々が近づいてきたところに男が振り返った。

 逃げるように一歩引く。

 両手にそれぞれ一本ずつナイフ。

 先ほどの長剣は、どこに。

 左手の一本を真上に投げた。くるくるときれいな円を描き、また男の左手に戻ってくる。次に右手のものも同じように投げる。吸い込まれるようにまたもとの手に戻っていった。

 左手の短剣を少し高く投げた。その剣先を見逃さないように見つめていると、気が付いたらもう一本、左手から短剣が投げられた。

 先に投げたほうが右手に落ちる。今投げたのも右に、そうしている間にまた左から、右に落ちる、くるくる回る短剣がいつの間にか円を描くように男の前で舞っていた。

「おお…」 

 だれかがほっとしたような、感心したような声を出す。ナイフジャグリング。その時このマスクの男は旅芸人だと認識された。こうなると、今度はこの男が何をしだすか期待してしまう。いつの間にか一人、二人と見物客が増えていった。

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