自称勇者を探し回る…の6
もう脅すだけ無駄である。わけのわからない勘違いをしたまま、いまだに自分の背後にいる女性を守っていると思い込んでいる男。殺されたくなければ身ぐるみ全部置いていけというのも面倒だ。
盗賊たちがキーウィの四方を囲む。
「ひえっ」
いい加減事態に気づいてもらいたいものだが、今は彼を諭すような者が近くにいない。自分の身の危険に怯え、ぱっと見では弱弱しいナンパな青年である。
盗賊たちは躊躇なく一斉に切りかかった。
だが自らに振り下ろされる分厚い曲刀の刃先が見えた時、彼の目の色が変わった。
「ゲウッ!」
右から向かって来た男のみぞおちめがけて石突を突き立てた。正面に蹴りを入れ、柄を握りなおして一振りする。盗賊どもが怯んで間合いを取った。その瞬間すかさず、一歩下がった男の懐めがけて一閃。一人は突き飛ばされて頭を強く打ち付けた。
歯向かう相手に怒りをあらわにする盗賊たち。
「何してやがる、相手は鎧も何もねえ!」
同時に襲い掛かるが、キーウィの目はこの場のすべての敵を捉えているかのようであった。柄と槍先を交互に振り左右後方の敵をけん制する。隙を逃さず一突き、相手の胴鎧ごと貫く勢い。その衝撃にたまらずしりもちをついてしまう。
軽やかに翻り、後ろ足で倒れた盗賊にけりを入れる。囲んでいたはずの者たちはいつの間にか獲物と正面から対峙する形になった。
誤算であった。気の抜けた男だと思っていたらとんでもない、戦いにおいては自分たちよりも数段上だとこの一瞬で思い知らされた。
こうなるとにらみ合うことしかできない。
「畜生めっ…!」
「ふん、外道はそちらでしょう。」
キーウィ・テアロアは勇者である。勇者を自称している。自称するからには悪と対峙したときのことを人一倍想定していた。たとえ鎧を剥がれようと、美人局に引っかかろうと、悪漢相手であれば後れを取るはずはなかった。
うかうかしているとこの男の仲間が探しに来てしまう。
盗賊たちは撤退の選択を余儀なくされていた。
だが、
「お前たちを放っておいては不幸になる人が出てくる。この場で俺が成敗してくれましょう。」
悪を見過ごさないのがキーウィである。
ルリたちと行動を共にして久しく悪漢裁きはしていなかったが、今は自分のみだ。ためらう必要がなかった。そのまっすぐとした「正義」の瞳に誰もがすくんでしまう。槍を握る手の筋肉が一層張り詰めたのが離れていても見えた。