自称勇者を探し回る…の2
彼のものらしい形跡は道をたどっても見当たらない。手がかりのないままこの道を進んでもどうにもならないと考えた一行は一度足を止めた。
「まず、キーウィがいなくなったのは私が着替えていた数分の間ですから、どうやってもそう遠くには行けないはずです。」
自分の周りに控える三人に、事実を確認するようにぐるりと目を向けた。彼らはそれぞれうなずく。
「キーウィが襲われていた場合、反対側にいたアル達も音で気づきます。」
「魔法かなんかで無音にして血痕も残さないなんて芸当が不可能な限りはそうだろうな。」
魔法で音を消す無音状態にする、ということは可能なそうだ。また血痕を見えなくすることもできなくはない。
が、血の跡を消すとなると臭いを消して、血液自体を見えなくして、かつ触れてもわからないようにする必要がある。感覚の操作が入るので、キーウィ以外の四人全員にかけなくてはならない。相手の意識を変更させる魔術のたぐいは相当高等で繊細なもので、相手に魔法に対する抵抗力が少しでもあればかからなくなってしまう。つまり抵抗力の高い巫女と神官が揃っているので事実上不可能である。
「…それらがすべて成功していたと仮定しても手間の割に合わないんですよね、キーウィさんを襲った場合は。」
よってその場で襲われ連れて行かれた線も考えにくい。
「じゃあ考えられうるのは、あいつが勝手にどっかいったか…」
「好みの女性に道を訪ねられたとかですかね。」
ありうる。
妙なところで勇気のあるこの勇者様は、女性に声をかけられただけで、鼻息を荒げて親切をする傾向がある。もちろん下心込みである。
「どっちありそうだ…。」
考えれば考えるほどアホくさくなってしまう。
「…けどどっちにしたって、なんの跡も残ってないのはおかしいだろう。」
そうなんですよね、とルリが首をひねった。
「最悪、見捨てても構わないかもしれませんね。」
「滅多なこと言うなよ。」
フリティアが冷たいことをいうので、アルバートは思わず言ってしまった。
「あら、意外と彼のこと気に入っていたんですか、アルバート。理にかなってるのは欠員が出ても前へ進むことだと思いますが。」
「ティア、私もキーウィを見捨てたくはないですよ。」
「もちろんですとも。彼も大事な旅の仲間ですものね。」
変わり身の速さには驚嘆させられる。
形跡を残さない方法。アルバートは唸った。
「瞬間移動……みたいな魔法があるんじゃないか?」
「はい?」
アルバートは声を抑えて一つ一つ自分の見解を示した。臭いも、足跡も、何一つ残さない方法であれば、何らかの魔法の作用によるものだと考えられる。キーウィは魔法への抵抗力が低くそれによって連れ去られたのではないか、と。
言い終わったとき、ルリが口元を抑えていた。
「…なんだ?」
「…ふふ、アルも意外と妄想家さんだなって…。ぷふっ。」
そういって意地悪に笑うルリ。
「んっ…ん。アルバートさん、魔法はそこまで万能なものではないんですよ。」
オーギは咳払いをして顔面からにやつきを吹き飛ばしてから、アルバートに答えた。
「空間跳躍なんて、世界の理から外れています。魔法は理の範囲内で扱うものなんですよ。」
「…そ、そんなこと言われても魔法は知らんし。」
「勉強になってよかったじゃないですか、アルバート。」
余裕の笑みでフリティアがアルバートの肩を叩いた。